内閣府によると、65歳以上の単身世帯は増加傾向にあり、今後もその流れは続くと予測されています。高齢者の場合、たとえ十分な資産があっても、予期せぬ壁にぶつかるケースは少なくありません。熟年離婚の末、質素なアパート暮らしを強いられながらも「幸せです」と笑顔で語る66歳男性の事例から、お金だけでは解決できない「おひとりさま問題」についてみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。
後悔はありません…“ボロボロのアパート”の駐車場に停まっている“ピカピカのレクサス”の謎。所有者の年金月7万円・66歳男性が満面の笑みで語った「まさかの真相」【CFPの助言】
お金はあるのに…ミツルさんが直面した「想定外の事態」
ミツルさんは自営業だったため、早くから「年金はあてにできない」と考えていました。そのため、日頃から極力質素な生活を心がけていたといいます。
妻が離婚を言い出したのは、そんな生活への不満もあったようです。しかし、慎ましやかな生活の甲斐があって離婚時の預金額は3億円。そのほか財産分与の対象となりそうな資産は、自宅とミツルさんの趣味の車です。
妻の求めに応じ、自宅と現金1億円を渡した後も、ミツルさんの手元にはまだ2億円の資産が残されていました。
住む場所を失うこととなったミツルさんですが「いずれ単身用の家を建てればいい」と考え、当面は仮住まいのつもりで賃貸マンションに移るつもりでした。そして、意気揚々と駅前の不動産業者を訪ねます。
しかし……。
事情を聴いた担当者は「実は、高齢の一人暮らしを嫌がるオーナー様が多くて……」と表情を曇らせます。「敷金礼金は払いますし、家賃滞納も絶対にありません」と食い下がっても、理想の物件は紹介してもらえません。
不動産屋いわく、身寄りのない高齢単身者は「孤独死のリスクが高い」と見なされ、発見が遅れた場合の原状回復などを懸念する家主から敬遠されがちだというのです。
「まいったな……」
想定外の厳しい現実を突きつけられたミツルさんは意気消沈。途方に暮れるなか、ダメ元で最後に尋ねた不動産業者で築50年近くの1DK(6畳+4.5畳の台所)、家賃6万5,000円のこのアパートを紹介されたのです。
「まあ、一生住むわけじゃないし、しょうがないか」
こうしてミツルさんは、現在のアパートに住むことになったのでした。
ミツルさんの年金は月額約7万円です。そのためほとんどがアパートの家賃に消えてしまいます。しかし、一人暮らしの生活費は月8万円もあれば十分です。生活費は預金から取り崩していますがなんの問題もありません。
住み始めて2ヵ月も過ぎると、最初は気乗りしなかったアパートも、意外にも快適だと感じ始めます。
もともと贅沢とは無縁の生活を送ってきたミツルさん。いつの間にか「このままここで暮らすのも悪くないな」と考えるようになったのでした。