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父の遺産300万円が底をついた日
「もう、どうにもならないところまで来てしまったんです。私がもっとしっかりしていれば……」
現在、要介護3の認定を受けた母・静江さん(82歳・仮名)と同居している鈴木由美さん(55歳・仮名)。
「母が受け取る年金は、国民年金だけで月に5万円ほど。私のパート収入が手取りで10万円くらいで……とてもじゃないけれど、これだけでは生活できないんです」
心許ない収入のなか、親子2人の生活を支えてきたのは、5年前に亡くなった父が遺した300万円ほどの貯金でした。
「父が『何かあった時のために』と必死で貯めてくれた大切なお金でした。でも、3年前に母が脳梗塞で倒れてから、生活は一変しました。母の介護のために、それまで勤めていた会社を辞めて、今のスーパーで1日4~5時間のパートをしています。収入は大きく減りました」
公益財団法人生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]/2021(令和3)年度』によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、一時的な費用の合計が平均74万円、月々の費用が平均8.3万円。介護保険サービスを利用しても、医療費やオムツ代など、毎月の出費はかさみます。また昨今の物価高により、その負担額は増すばかり。足りない分は父の遺産から毎月5万円ずつ切り崩していました。
「通帳の残高が減っていくのを見るのが、本当に怖くて、苦しかった。父に申し訳なくて……。でも、そうしなければ母との生活を守れなかったんです」
介護と仕事の両立は、由美さんの心身をすり減らしていきました。総務省統計局『令和4年就業構造基本調査』によると、過去1年間に「介護・看護のため」に前職を離職した人は10.6万人。由美さんのように、介護をきっかけに経済的な苦境に立たされる「介護離職」は珍しくありません。
そしてついに遺産の底が見えてきました。「万策は尽きた……」。そんななか最後の望みを託し、由美さんは市役所の福祉課の窓口を訪れます。
「生活保護は、正直抵抗がありました。不正受給が問題になって、批判されることも多いじゃないですか。後ろ指刺されそうで心配で……でもそんなこと、言っていられないと意を決したのです」
しかしそこで耳にしたのは、あまりにも非情な言葉でした。