現役時代から考えておくべき「WPP戦略」―人生100年時代の老後設計

まだ現役で働く皆さんには、神宮寺夫妻よりも多くの選択肢があります。その中で役に立つのは、「WPP戦略」です。名古屋経済大学の谷内陽一教授が、厚生労働省社会保障審議会企業年金・個人年金部会で紹介している戦略です。

WPP戦略に基づく対応策は以下の通りです。

 ①W(Work longer):長く働く
65歳で完全リタイアではなく、70歳まで働くことを検討する。
<長く働くメリット>
 ・ 収入継続で貯蓄・投資の余裕ができる
 ・健康寿命の延伸効果

②P(Private pensions):私的年金・自助努力
iDeCo、新NISA、企業年金を最大限活用する。
 <具体的な対策>
 ・ 新NISA:年間360万円まで非課税投資
 ・iDeCo:所得控除付き非課税積立
 ・インフレ対応型商品:個人向変動10年国債、バランス型投資信託など

 ③P(Public pensions):公的年金の最適化
公的年金は工夫次第で“増やす”こともできる。 その代表が繰下げ受給。
 ・ 年金受給を1ヵ月遅らせるごとに0.7%増額。
 ・ 65歳から70歳まで5年間遅らせれば42%増→毎月15万円の人なら、21.3万円に。
 ・75歳まで遅らせれば84%増→毎月15万円が、なんと27.6万円に。

上記のうち、繰下げ受給については、「遅らせた分だけ損するんじゃないの?」と不安に思う方も多いでしょう。 実際の損益分岐点は繰下げ後11年11ヵ月。70歳から受け取り始めた場合は81歳11ヵ月を超えると、65歳から受け取った人より生涯総額が多くなります。

平均余命から計算すると、現在65歳の男性は平均で約85歳、女性は約90歳まで生きると見込まれています。 つまり、多くの人は繰下げ受給の方が「得」になる可能性が高いのです。健康寿命や生活資金の余裕をどう考えるかによって、最適な選択は変わるという点には注意が必要です。

従来の『退職したら年金だけに頼る』という発想では、もはや立ち行きません。公的年金をベースにしつつ、自助努力で私的年金を積み立て、さらに可能な限り長く働く。この三位一体の戦略こそが、これからの老後設計には必要です。

今すぐ始めたい老後資産防衛の重要ポイント

神宮寺夫妻の体験から学べる重要なポイントは以下の通りです。

物価上昇の現実を受け入れる
・年2%のインフレでも、10年続けばお金の実質価値は18%目減り(2024年の消費者物価の平均総合指数は前年比2.7%の上昇)
・年金制度には物価上昇対応機能はあるが、物価上昇に追いつかない

現金・預貯金だけのリスクを理解する
・銀行預金の安全神話は、インフレ時代には通用しない
・適度なリスクを取った資産防衛策が必要

現役時代からのWPP戦略が生死を分ける
・長く働く、私的年金、公的年金の三位一体
・iDeCo、新NISA活用による長期積立投資
・インフレ対応型金融商品への分散投資

老後に入ってからでも諦めない
・限定的でも対応策は存在する
・生活費削減、副収入確保、公的サービス活用が重要

物価高騰という「見えない敵」から老後生活を守るには、従来の常識を捨て、新しい時代に適応した資産管理が不可欠です。神宮寺夫妻のような状況になってから慌てるのではなく、まだ働いている今のうちに、しっかりとした準備を始めることが何より重要なのです。 

ファイナンシャルプランナー
青山創星