結婚を前に突き付けられた「奨学金の現実」

彩さんは美大を卒業後、大手企業のデザイナーとして安定した収入を得ています。2年前に実家を出て独り立ちし、30歳になった今、結婚を決意。婚約者も誠実な会社員で、家族は大きな喜びに包まれました。

しかし婚約からしばらくして、相手の母親から彩さんにLINEが入ります。

「奨学金の残債があると聞きました。詳しく教えてもらえますか? 残りはどれくらいあるのでしょうか?」

最初は丁寧な口調でしたが、彩さんが「まだ300万円ほど残っています」と答えると、相手の態度が一変しました。

「えっ、そんなに?毎月いくら返しているの? いつまで続くの?」

続けざまの質問に、彩さんは動揺します。毎月2万円以上を返済中で、完済は40代半ばの予定。本人にとっては日常の一部でも、相手家族から見れば「多額の借金を抱えた花嫁」と映ってしまったのです。

「親御さんはなぜ援助してくれないのですか?」という言葉まで投げかけられ、彩さんは深く傷つきました。そして両親への怒りと悲しみが混じった感情で、冒頭の号泣電話をかけてきたのです。

奨学金は「教育投資」か、それとも「借金」か

日本学生支援機構(JASSO)の調査 によれば、大学生の約半数が奨学金を利用しています。平均の借入総額は約310万円 。500万円を超える利用も1割ほどあり、美大など授業料が高額な場合は珍しくないことが推察されます。

また、返済期間は平均14.5年です。 奨学金は教育の機会を広げる制度である一方、JASSOの第二種奨学金の場合は有利子のため、返済総額はさらに膨らみます。結婚や住宅購入といったライフイベントの時期に「借金」として露呈し、人間関係に影を落とすこともあるのです。

彩さんのケースもその典型例。借りる段階では「夢を応援したい」「働けば返せる」と思いがちですが、その先のライフプランを見据えなければ、子ども本人だけでなく家族にも影響を及ぼします。