近年、温暖化などの影響からか、異常気象が頻発する日本。こうしたなか、台風が多くなるこの時期に備えておきたいのが、豪雨による「水害リスク」です。そこで今回、河と海それそれの沿岸部で特に気をつけておきたい水害とその危険性について、『47都道府県の怖い地理大全』(彩図社)から見ていきましょう。
国土交通省が警鐘…“404万人の日常”を脅かす「海抜ゼロメートルのリスク」に備える
水害リスクの高い海抜ゼロメートル地帯
高度経済成長期には工業利用のため、地下水や天然ガスが過剰に汲み上げられた。結果として地下水の水位が低下し、地盤が沈下した地域も多い。中でも海抜以下にまで沈下した地域は、海抜ゼロメートル地帯と呼ばれる。
ゼロメートル化が起きているのは、三角州などの低地や河川敷の都市部、沿岸部などが中心だ。国土交通省が特に警戒しているのは、次の3カ所。東京湾、伊勢湾、大阪湾の沿岸部だ。これらの地域には合計約404万人が居住している。
江戸時代から干拓事業が繰り返されたことにより、右の3カ所では低地が形成された。昭和になると工業地帯が形成され、前述のように地下資源が過度に汲み上げられている。加えて埋立地は、地盤が徐々に沈下している。それらの要因が重なり合い、標高が海面を下回ったわけだ。
ゼロメートル地帯の問題は、水害に弱い点にある。海面より標高の低い地域は、大雨・高潮による浸水が起きやすい。一度水没すると自然に排水されにくく、浸水期間は平地より長期間に及ぶ。1959年9月の伊勢湾台風でも、犠牲者5098名のうち1500名以上が、名古屋市のゼロメートル地帯で発生したとされる。
こうした被害を防ぐため、各地域では水門を設置するなどして、対策を進めている。2025年4月現在は地下水汲み上げ規制も広く敷かれており、地盤沈下は沈静化している。
しかし、問題も指摘されている。汲み上げを停止すると、水が外部に流れ出る量が激減するため、地下水位(井戸水の水面の高さ)が上昇しやすくなる。地盤に多くの水が滞るので、液状化リスクの上昇、地盤の隆起、地下水噴出といった問題が生じる恐れがある。実際、取水制限を敷いた大阪市では、これらの問題に悩まされているという。
だが取水制限を緩和すれば、地下水流が変化して水質が悪化する恐れがあるし、地盤の再沈下が起きる可能性もある。いかに地盤沈下と水位上昇を防いでいくか。ゼロメートル地帯は困難な状況に直面している。
地形ミステリー研究会
オフィステイクオー