人生100年時代、最大の懸念は「お金」と「健康」。特に、予期せぬケガによる高額な医療費は、老後の生活設計を大きく狂わせます。なかでも高齢者の「転倒」による骨折は、手術や介護で大きなコストがかかることも珍しくありません。多くの人は「足腰のせい」と諦めがちですが、もしその根本原因が、もっと手軽に予防できる「口の中」にあったとしたらどうでしょう。歯が減ることで全身の筋力が低下し、転倒リスクが2.5倍に跳ね上がるという事実は、歯のメンテナンスを怠ることが、将来の経済的損失に直結することを意味します。本記事では、「転倒と歯」のディープな関係について、幸町歯科口腔外科医院院長の宮本日出氏が解説します。
「最近つまづきやすくなった」「やっぱり、歳かな」…その思い込みが“寝たきり”を招く。60代以上の転倒、本当の犯人は足腰の衰えではなかった【歯科医師が解説】
手軽にできる検査で、早めの対策を
転倒リスクを減らし、健康を維持する第一歩は「歯医者さんで踏み出せる」のです。
歯医者さんで定期的な口腔ケア(口腔メンテナンス)を継続すると、内部から発生する全身のさまざまな疾患の発症・進行の対策になることは知られています。そのほかにも、外部に発生する全身の筋力の衰え「フレイル」対策にもなります。
つまり歯医者さんに通うことは、体を内外から健康に保つ基本中の基本ということです。特に口腔ケアの継続は歯の健康寿命の延伸に効果的でしょう。継続した口腔ケアは、歯が抜けることから守ってくれますから、歯の数が減少し、転倒リスクが増えることを事前に避けることができます。
自分の状態を確認したい場合は、口腔機能管理を行っている歯医者さんで以下の簡単な検査を保険治療として受けることもできます。
・嚥下機能検査:舌の力を測定します。舌は嚥下を管理する喉の筋肉につながっているので、嚥下の機能を調べることができます。
・咀嚼機能:グミのようなものを両方の奥歯で噛んで、噛む能力を測ります。
・口唇力検査:ボタンを唇に挟み、ボタンを引き抜く際に唇を閉ざして抵抗します。この際の唇の締める力を測定します。
・滑舌検査:「ぱ」「た」「か」などを一定時間に発声できる回数をカウントして、滑舌の具合を調べます。
もし、これらの検査で異常(低下)が発見されても、心配する必要はありません。簡単なお口トレーニングを行えば、徐々に機能は回復します。
前述の口腔機能管理事業を積極的に行っている志木市では「お口の筋トレタウン」を謳い、口腔機能トレーニングに励み、多くの市民が機能回復を達成しています。その活動は「べろマッチョ同好会」といって、いかにも楽しそうなネーミングですね。
そうです、口腔機能トレーニングは、吹き戻しで的当てをしたり、歌ったり、早口言葉をいったりと、ゲーム感覚で楽しく取り組めるのです。
また、歯の数が減って転倒リスクが高くなっている方は、入れ歯を入れることでリスクは減少します。「入れ歯は年寄りくさいからな〜」と敬遠しがちな方も多いのですが、そのほかにブリッジ治療やインプラント治療などの選択肢もあります。
転倒は「歳のせい」だけではありません。あなたの体の「筋力低下のサイン」かもしれません。そしてそのサインをみつける鍵は、歯医者さんにあるというわけです。
人生100年時代。転ばないで元気に歩み続けるために、皆さんもまずはかかりつけ歯医者さんで相談してください。
宮本日出
幸町歯科口腔外科医院・院長
歯科医師・歯学博士