2015年に持続可能な開発目標として採択されたSDGs。メディアで見かける頻度は減り「SDGs疲れ」の潮流にもみえますが、それは日本社会にSDGsが根付いたサインとも捉えられるようです。本稿では、ニッセイ基礎研究所の小口裕氏が、「SDGs」の検索頻度の国別データをもとに日本におけるSDGs概念の定着率について解説します。
「SDGs疲れ」の空気から考える、本当のサステナビリティ-「検索データ」から見る、日・米・欧のSDGsギャップ (写真はイメージです/PIXTA)

「SDGsは、今は流行らない」という声に立ち止まる理由

「最近、SDGsって聞かなくなったよね」「ちょっと流行りすぎたんじゃない?」——そんな声がビジネスの現場からも聞こえてくる。かつては企業も自治体もこぞってバッジをつけ、テレビや教材でも目にする機会が多かったこの言葉に、少し冷めた空気が漂っているのは否めない。

 

だが、この「飽き」のような反応は、果たして実態に即したものなのだろうか。Googleトレンドによる検索行動のデータをもとに、日本のSDGsとの向き合い方を改めて考えてみたい。

「突出した関心」は「過熱」ではなく「集中的普及」の結果?

Googleトレンドのデータ*1を見ると、日本におけるSDGsの検索数は、2021年にかけて急上昇し、ついには検索人気の最大値「100」に到達している(数表1)。

 

資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの
[数表1]日本におけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移(SDGsなど) 資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの

 

1 このデータはGoogleトレンドに基づき、各国で検索されたサステナビリティ関連キーワードの人気度(相対的な検索量の推移)を示す。0~100の指数で表示され、検索数の絶対値ではなく、地域・期間内での関心の強さを相対比較できる。Google社が提供している。なお、本解析ではドイツ・フィンランドについて、SDGs以外の表現は現地の主要言語に翻訳してデータ収集・集計をしている。

 

後述するが、対照的に同時期の米国やドイツでは20~30台にとどまり、明らかに日本だけが異例の盛り上がりを見せていた。

 

この現象の背景には、東京オリンピックの開催準備をはじめ、政府による全国的な推進、教育現場への急速な導入、企業による一斉対応といった、トップダウン型の広報活動も一因としてあるだろう。言い換えれば、日本では「SDGs」という枠組みが、わかりやすく、かつ一気に社会へ浸透しやすい形で提供されたということでもある。

ESGとSustainabilityに注目する世界。SDGsに集中する日本

視点を世界に広げると、各国で注目されているキーワードに違いがあることがわかる。たとえば、米国では「Sustainability」や「ESG」が長期的に高い検索水準を維持しており、特にESGは2023年に人気度が上限の100を記録している。これはESG投資をめぐる政治的議論や州法の制定などが影響していると考えられる(数表2)。

 

資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの
[数表2]米国におけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移 資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの

 

また、ドイツやフィンランドなど欧州では、「Greenwashing」への関心がわずかながらも動きを見せており、企業の環境主張に対する消費者の批判的視線があることが伺える(数表3・4)。

 

資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの
[数表3]フィンランドにおけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移 資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの

 

資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの
[数表4]ドイツにおけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移 資料:GoogleTrendによるデータをニッセイ基礎研究所にて分析・可視化したもの

 

その一方で、日本では「SDGs」への検索が圧倒的(数表1)で、ESGやSustainabilityは常に低位にとどまっている。これは、SDGsが「入口の言葉」として、他国で分散されている関心を日本では一手に引き受けてきたことを示唆しているとも言えるだろう。