総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、高齢者のいる世帯が賃貸住宅に居住する割合のうち、高齢単身世帯は32.1%で過去最高を記録しています。一方、こうした賃貸暮らしの高齢者は、近い将来「恐ろしすぎる現実」に直面する可能性があります。具体的な事例をもとに、解決策を見ていきましょう。牧野寿和CFPが解説します。
年寄りに厳しすぎないか…〈年金月21万円見込〉〈貯金2,500万円〉60歳・元地方銀行の支店長が「賃貸暮らし」を後悔したワケ。知人大家が遠慮がちに告げた“残酷な事実”に涙目【CFPの助言】
Aさんが「快適な老後」を過ごすには
「お金はあっても、年だからという理由で住みたい家にも住めないなんて……この社会は年寄りに厳しすぎやしませんか」
そう話を締めくくったAさん。
とはいえ、Aさんは「生涯単身で過ごすと決めている」と話します。そこで筆者は、将来的にお金や健康の管理などをしてもらう、いわば「後見人」を決めておくことは、物件探しと同じくらい重要だと伝えました。
すると、Aさんの兄夫婦の二男(Aさんの甥)で、すでに社会人のCさんを、養子に迎える予定だと言います。今のところいっしょに住む予定はないそうですが、養子縁組ができればAさんにとっては、身元の保証人また引受人になってもらえて、今後賃貸住宅も借りやすくはなるでしょう。
Aさんに潜む「老後破産」の危険性
さらに、Aさんは現在、嘱託行員時代に購入した外車の維持費など、毎月40万円近く貯蓄を取崩しているそうです。このままでは年金受給までに貯金が尽き、家計が破産する可能性もあります。
そこで、65歳の年金受給まで、たとえば65歳からの年金受給見込額の月21万円で家賃を含めて生活できれば、65歳時点で約1,200万円の貯金を残すことができます。
ただ、その生活のためには築古アパートの家賃が妥当でしょう。それがイヤだということであれば、再度働くなどして収入を増やすしかありません。
ここまで話を聞いたAさんは、後見人や今後の引越し先を含めて家計収支をじっくり試算してみるといって帰られました。
Aさんの「その後」
数ヵ月後、Aさんが再び筆者のもとを訪れました。そして、親兄弟親族で集まって話し合い、本人の承諾を得て、Cさんを養子に迎えることにしたと教えてくれました。
また、賃貸では終の棲家は難しいと、平屋の中古戸建住宅を見つけて、毎月約9万円を10年間で返済する住宅ローンで購入することにしたそうです。
もっとも、この返済を含めると毎月21万円では生活はできないため、支店長時代から懇意にしていたD社の財務顧問として、退職時の約半分の報酬で再び勤めることに。また、外車は売却して、その分貯蓄が増えたと教えてくれました。
結果、Aさんは毎月の生活費を30万円に設定。机上ではありますが、Aさんが100歳になっても1,000万円ほど残る計算です。
「まさか自分が賃貸の入居を断られるとは思ってもいませんでした。とはいえ、現在の『独身、高齢者、無職』が避けられるのは、賃貸経営のリスクを考えると仕方がないですね。戸建ての終の棲家も購入したし、Cも養子になってくれたので、これで自分の老後は……、やはり老後を考える歳になっていたんですね。老後を安心して過ごせる準備ができました」
Aさんは安堵した表情でそう話してくれました。
高齢になってからの賃貸住宅の住み替えは、保有資産額に関わらず難しくなることが多いです。終の棲家はどこにするのか、現役の内に決めておいても早すぎることはないかもしれません。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員