社宅を退去した独身男性…54歳で初めての賃貸生活を満喫

――いまの社会は年寄りに厳しすぎやしませんか。

数ヵ月前に60歳の誕生日を迎えたAさんは、涙目でそう呟きます。

6年前、Aさんはある地方銀行の中規模店の支店長でした。そのころの年収は約1,200万円で、貯金は3,000万円ほど。

決して節約はしておらず、むしろどちらかというと派手な生活を送っていたAさんですが、まとまった貯金ができていたのには訳がありました。それは「社宅暮らし」だったからです。

銀行員は本部勤務でない限り、数年ごとに県内を転々とします。そのため、独身のAさんは周囲からの“冷ややかな視線”を気にせず、入行以来ほとんど家賃のかからない社宅に入居していたのでした。

そんなAさんも、55歳で役職定年を迎えます。一時は役員への昇進を夢みていましたが、どうやらその目はなさそう。嘱託行員として引き続き勤めることはできても、銀行のルール上、社宅からは退去しなければなりません。そのため、嘱託になる前から住むところを探し始めたのでした。

「独身だし、わざわざ家を買うのもな……とりあえず賃貸でいいか」

嘱託行員としての給与では少し払い過ぎではあるものの、支店長のプライドもあり、駅にほど近い築浅のマンションに決めます。

当時のAさんは地元の銀行の支店長。54歳の独身でも、気に入った物件を難なく借りることができました。

その後、やはり嘱託行員となったAさん。給与は大幅に減額となりますが、いきなり生活水準を下げることはできません。むしろ時間に余裕ができ、元より興味を持っていた外車を購入。支店長時代の取引先の社長の紹介でその車の日本のオーナーズクラブに入会するなど、充実した生活を送ったのでした。