お金はあるが…Aさんが直面した厳しすぎる現実

それから5年が経ち、数ヵ月前に60歳の定年を迎えたAさん。無職になったAさんの貯蓄は、退職金を含めて約2,500万円です。この5年間に2,000万円近くも使い、想像以上に貯金の減りが早いと焦っています。

老齢厚生年金が受給できるのは65歳からです。それまで無収入の期間を乗り越えるため、いまより安い築浅のワンルームを探すことにしました。しかしどの不動産仲介業者の窓口でも、「独身、60歳、無職」と話すだけで嫌がられ、気に入った物件が見つかっても、ことごとく断られます。

「なんでだよ……別にお金が無いわけじゃないのに」

疑問に思ったAさんは、現役時代に取引のあった地主大家に相談。すると大家は、遠慮がちにこう言います。

大家「だってAさん、あんたひとり身じゃないか。悪いけど、一人暮らしの高齢者は事故物件になるリスクもあるから、貸す側としては空室で困っているとかよほどの理由がない限りは避けたいんだよ」

なんとなく予想はしていたものの、聞きたくなかった残酷な現実。Aさんは自身が置かれている状況に絶望しました。

その後、ある不動産会社で単身の高齢者でも即入居できそうな数件の築古アパートの紹介を受けます。

「今の自分が借りられる部屋はこの程度なのか……」

Aさんはがく然としました。

ただ、元支店長としてのプライドが捨てきれないAさんは「こんな部屋で老後を過ごしたくない。いっそ家を買うか、どこかでまた働くか……?」と考えるように。

今後の生活への不安が膨らんだAさんは、誰かに話を聞いてほしいと、知り合いのCFPに相談することにしました。

事故物件化を心配して高齢者を嫌う賃貸の現状

日本少額短期保険協会「第9回孤独死現状レポート(2024年)」によると、賃貸住宅で孤独死が発生した場合、次のような費用がかかるそうです(図表)。

[図表]賃貸での孤独死発生時にかかる費用 ※出所:日本少額短期保険協会「第9回孤独死現状レポート」をもとに筆者作成
[図表]賃貸での孤独死発生時にかかる費用
※出所:日本少額短期保険協会「第9回孤独死現状レポート」をもとに筆者作成

そのほか、同調査によると、入居者が孤独死した場合、発見までに平均18日かかるそうです。

賃貸物件のオーナーは、部屋の特殊清掃や原状回復の費用、また故人に身寄りがなければ残された家財の処分費用などの負担も発生します。加えて事故後の空室(事故物件)の家賃の値下げも打撃でしょう。

オーナーはこれらのリスクを回避するため、単身や高齢者、身元引受人のいない人の入居を断る傾向にあるようです。