保有株をすべて売却することとなった理由

こうして楽しく優待生活を続けていた堂ノ内さんですが、突然の試練が訪れます。

ある日、アメリカの関税政策をめぐる報道が市場を揺るがし、全体的に株価が下落。堂ノ内さんの資産も800万円まで減少したのです。

「まあまあ……株主優待があるから大丈夫だ」

そう自分に言い聞かせ、しばらく様子を見ることにしました。

ところが1ヵ月後、保有していた大手回転寿司チェーンのK株がストップ安になりました。堂ノ内さんはこの銘柄を1株3,800円で1,000株、およそ380万円分を保有。自宅から数分のところにあるお店で一番お気に入りの銘柄でした。

最初は3,900円前後だった株価が、3,200円まで急落。「さすがにここが底だろう」と思っていた矢先、株価はさらに下がり、2,600円台にまで落ち込みました。

「いったい、なにが起きているんだ……?」

慌ててネットで情報を調べたところ、なんと株主優待の廃止が発表されていたのです。

この銘柄だけで、約120万円の含み損。優待も失われたいま、持ち続ける理由はないと判断し、泣く泣く売却しました。

そして、「他の銘柄も同じように優待が廃止されるのではないか」と不安が膨らんだ結果、堂ノ内さんはすべての保有株を売却。結果として、証券口座の残高は720万円にまで減ってしまったのでした。

人気を集めている「株主優待投資」のリスク

導入企業は20年あまりで「約2.5倍」に

株主優待を目的とした投資、いわゆる「株主優待投資」は、一部の個人投資家のあいだで根強い人気を集めています。株主優待投資とは、企業が株主に対して提供する商品券や自社製品、食事券などの「優待品」を目的として株式を保有する投資スタイルのことです。

実際、日本証券業協会が公表したデータによると、2000年時点で優待制度を導入していた企業は602社でしたが、2024年には1,494社にまで増加しています。

出所:日本証券業協会「株主優待の意義に関する研究会報告書(概要)―株主優待の意義について―」
[図表]株主優待実施企業数の推移 出所:日本証券業協会「株主優待の意義に関する研究会報告書(概要)―株主優待の意義について―」

この数字からも、企業側・投資家側の双方にとって、株主優待が1つの文化として定着してきたことがわかります。

しかしその一方で、株主優待投資には注意すべきリスクも存在します。

・株価の下落リスクがある

・優待制度の廃止により、株価が急落することがある

株主優待投資は、たしかに楽しみながら資産形成を目指せる魅力的な手法ですが、「株式投資」である以上、リスクは常につきものです。仕組みや注意点を十分理解したうえで、慎重に投資を検討しましょう。