再雇用の実態

現在、日本では60歳以降も働き続ける人が増えており、高齢期の就労が一般化しつつあります。

この背景には、企業に義務付けられている「高年齢者雇用確保措置」の存在があります。これは、企業が以下のいずれかの対応を取ることを求める制度です。

●定年制の廃止

●定年年齢の引き上げ

●継続雇用制度の導入

これにより、60歳以降も労働を継続できる環境が整いつつあります。

では、なぜ国はここまでして高年齢者の就業を後押ししているのでしょうか。主な理由のひとつに、老齢年金の支給開始年齢の引き上げが挙げられます。

かつては60歳から受給できた公的年金ですが、現在は段階的に65歳からの支給に移行しており、60歳定年を迎えた後の5年間に空白期間が生じるようになりました。このあいだの生活費を貯蓄で賄うことになれば、資産の取り崩しが早まり、老後資金に影響を及ぼす可能性があります。

こうした問題を解消するため、政府は企業に対して再雇用制度などの導入を促し、高年齢者の就業機会を確保する政策を進めてきました。

「月収45万円」の再雇用オファーに即答

富永伸二さん(仮名・59歳)は、食品卸会社に勤める年収約700万円のサラリーマンです。現在は専業主婦の妻と二人暮らしで、貯金は200万円ほど、退職金はおよそ800万円と見込まれています。

そんな富永さんには、ひとつの不安がありました。それは、定年を迎えたあとの生活です。勤め先では定年が60歳と定められており、65歳までの5年間は働く先が決まっていませんでした。つまり、この5年間は無収入になる可能性があったのです。

「5年間も収入がないなんて耐えられるだろうか……年金の繰上げ受給も視野に入れないと」

そんなある日、定年を間近に控えた富永さんは会社から再雇用の打診を受けます。人手不足も背景にあり、60歳以降の継続勤務も含めて働き続けてほしいという内容でした。

耳を疑った富永さんでしたが、思わず「はい、よろこんで!」と即答。

まさか定年前にこのような条件で声がかかるとは……浮かれ気分のまま自宅に戻り、さっそく妻に報告したところ、妻も目を輝かせて大喜びです。