経済面の不安とどう向き合うか

クリスティン:貯蓄生活から支出生活へ移行する際の心理面についてはいかがでしょう。とても大きな変化ですよね。私自身、そのときが来てもなかなか使えないように思います。どうやって気持ちを切り替えればいいですか?

フリッツ経済面においてリタイアにともなういちばんの変化は、蓄財フェーズから資産を取り崩して生活するフェーズへの移行でしょう。給料が支払われなくなり、あとは死ぬまでポートフォリオからお金を引き出す生活になるのです。命が尽きる前に資産が尽きないとはいえません。おそろしいことですよね。過剰に心配することなく、貯める側から使う側に移行できるよう、段階的に慣れていかなければいけません。

強調しますが、こうしたことは退職1カ月前に気づいたのでは遅いのです。長いあいだ深く考えもせず積み立て貯金をしてきたでしょう? 退職したらどうしますか? どうやって生活費を管理するつもりですか? その場でいきなり決められることではありません。半年ほどかけて方法を考え、それに合ったポートフォリオを再構築しましょう。まずは現金が必要です。理想をいえば退職したその日に2、3年分の生活費を現金で引き出せる状態にしておくのがよいでしょう。

では3年分の生活費を用意するのにどれほどの期間がかかるでしょう? それなりにかかりますよね。大量に株を売ることもできるでしょう。ただ僕のお勧めは退職まで1、2年になったら投資資金の一部を現金のバケットに入れることです。ボーナスや臨時収入をすべて退職後の生活費として普通口座に入れるんです。これをバケット戦略と呼びます。普通口座でなくても構いませんよ。大事なのは主体的に考え、リタイア生活を不安なく始められるようなシステムを整えることなのです。

クリスティン:社会保障年金の受給開始時期についてはどうお考えですか? 退職まで1年となる前に考えておくべきではないでしょうか? データによると退職してすぐ社会保障年金の受給を開始する人が多いです。しかし受給資格を得たと同時に、もしくは必要になったと同時に請求するのが必ずしも正解とはいえませんよね。

フリッツ:給料の代わりに社会保障年金が振り込まれれば安心ですよね。都合がいい。ただ、それは最適解ではありません。専門家のほとんどが〝長生きできない合理的な理由があるのでないかぎり、受給開始時期は遅らせるに越したことはない〟といっています。

うちの場合は妻が62歳から受給し、僕は70歳まで待つことにしました。そうすると妻が最大額の配偶者年金(加給年金)を受け取れるからです。試算サイトでもそれが最適という結果でした。ただし70歳から受給するためにはそれまでの生活費をポートフォリオから捻出しなければなりません。そこが検討すべきところです。

より長い期間にわたって投資資産から一定金額を引き出しても大丈夫でしょうか? 老後の全期間を考えれば、そういう選択のほうが総収入が多くなるかもしれません。しかしそのためには退職後の早い時期に投資資産を大きく削る必要があり、そうした行為にあなたの心理面が耐えられるかどうかが問題です。

いつまで生きるかは誰にもわかりません。受給開始年齢を遅らせても1年後に死んでしまうかもしれない。この場合は繰り下げ受給という選択がまちがっていたことになりますが、それはあとにならないとわかりません。要するにこの問題には一応の最適解はあります。数学的に考えて、多くの場合は受給開始年齢を遅らせたほうが得です。しかし同時に〝繰り下げ受給をしたほうが得なことはわかっているが、給料がなくなっても年金が振り込まれたほうが不安が減る〟と思うなら、そちらのほうがいいかもしれません。