■登場人物

・クリスティン・ベンツ…投資調査会社モーニングスターの資産管理およびリタイア計画担当ディレクター
・マイケル・フィンケ…大学教授(経済学)

健康でいること、良好な人間関係を保つこと

クリスティン:あなたは金融資産に投資するのと同じくらい、健康や人間関係に投資することが大事だと指摘していますが、これについて詳しく教えていただけますか?

マイケル:お金が人を幸せにするわけではない。これを忘れてはいけません。お金というのはパソコン画面に現れる数字であり、数字が印刷されたただの紙切れです。それを使うことで幸せを得られる。お金が大事なのはまちがいありません。活動資金ですからね。

お金があればカントリークラブに入会してゴルフやテニスをすることができますし、そこで新たな友人を得られるかもしれません。お金があれば家族で旅行をしたり、友人と食事をしたりする機会が増え、楽しいとか幸せだなと感じられるわけです。いずれにしても喜びをくれるのはお金そのものではない。ここについてよく考えてみましょう。

幸せな老後を迎えるためにはお金以外にも投資すべきものがあるはずです。そもそも投資とはなんでしょう? 未来をよくするために、今日、少しの犠牲を払うことではないですか? 私が考えるに、人生でいちばん大きなリターンをもたらすのは健康と人間関係なんです

クリスティン:それではまず健康に投資することから教えてください。

マイケル:たとえば退職したら山登りをしたいと思っている人がいるとします。ただ、仕事をやめても体力がなければ山なんて登れません。だから山に登りたいなら若いうちから身体を鍛えておかないとだめです。そこに時間を投資しなければ、山登りという目標はあきらめざるをえないわけです。身体がついてきませんから。

体力的に無理なのに登山資金ばかり貯めたところで意味がない。毎日、身体を鍛えるのにかける時間は地味で楽しくないかもしれない。それでも体力を維持するために、先行投資が必要なんです。

「人間関係に対する投資」とは?

クリスティン:なるほど。人間関係に対する投資はどんな感じですか?

マイケル:人間関係を充実させるために何をすればいいかを考えましょう。地域社会とのつながりも大事ですし、移住するつもりなら移住先の人間関係も含めて考えないといけません。たとえば長年の友人が近くに住んでいると人生の満足度が上昇します。古い友人と交流できる場所に住んでいるだけで、老後の幸福度が実際に高まるんです。周囲と交流しやすい環境に身を置くことも大事です。

一般的に80代になると社会から孤立するリスクが高まります。とくに戸建て住宅に住んでいる人はその傾向が強くなる。テキサス工科大学の教授が行ったリサーチでは、70代までは戸建てに住んでいる人のほうが人生の満足度が高いのですが、80代になったとたん、集合住宅に住む人のほうが満足度が高くなるそうです。孤立のリスクが低いからです。

環境とは別に、社会とのつながりを得られるような生活習慣をつくることも大事です。定期的にジムに通うなんてどうでしょう? ジムで運動する習慣がつけば健康にも投資できますし、トレーナーや会員同士で交流して人間関係も充実します。ボランティア活動に参加するのもいい。美術館のボランティアガイドなどは、人前に立つのが苦手でなければとてもいいチャレンジだと思いますよ。

ついでにいえば、何か得意なことがあるなら退職後もそれを習慣化して実践しましょう。4年も5年も経ってから、これがやりたかったと気づいても、以前と同じようにはできなくなっているかもしれません。さて、投資の方針が決まったら、次は具体的な計画を立てます。早いうちに準備しないとリタイアしてすぐにとりかかることができません。

さて、投資の方針が決まったら、次は具体的な計画を立てます。早いうちに準備しないとリタイアしてすぐにとりかかることができません。