リタイア後の人生をどう生きるか。これはアメリカでも日本でも共通した課題です。本稿では、『How to Retire お金を使いきる、リタイア生活のすすめ』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集し、投資調査会社モーニングスターの資産管理およびリタイア計画担当ディレクターであるクリスティン・ベンツとスタンフォード大学のローラ・カーステンセン博士の対談から、そのヒントをご紹介します。
「仕事が生きがい」の男性→退職でアイデンティティ喪失の危機も…幸せなリタイア生活を送るための秘訣
■登場人物
・クリスティン・ベンツ…投資調査会社モーニングスターの資産管理およびリタイア計画担当ディレクター
・ローラ・カーステンセン…スタンフォード大学の心理学教授/スタンフォード長寿社会リサーチ・センターの初代所長
働くことの意味
クリスティン:私もこの仕事をするようになって、退職後もできるだけ働いたほうがいいという思いが強まりました。たとえ経済的に困っていなくてもです。仕事をしているほうが豊かな人生を送れるのではないかと。
ローラ:働くことは精神にも肉体にもいい効果をもたらしますが、働き方が問題です。私も含め多くの人は忙しすぎるせいで過度のプレッシャーにさらされ、一刻も早くリタイアしたいと思っています。週に40時間から50時間働いて、休暇もまともにとれず、常に〝オン〟の状態にあるとしたら……休暇をとれたとしても、絶え間なくiPhoneやiPadでメールをチェックしなければならないとしたら、それは健全な働き方とはいえません。
さらにその状態からいきなりリタイアして、〝誰にも必要とされていない。何もやるべきことがない〟状態になるのもよくありません。現代社会に必要なのは生涯にわたる働き方改革です。あなたのおっしゃるとおり、なんらかの仕事をすることは人生によい効果をもたらします。年を重ねるにつれて仕事量を調整し、生活とのバランスをとって柔軟に働きたいものです。
クリスティン:仕事と人間関係についてはどうですか? とくに男性の場合、仕事関係のつきあいが人間関係の大部分を占めるので、仕事をやめると友人とも疎遠になって苦労すると聞いたのですが。
ローラ:まさにそのとおりです。男性は人生における仕事の比重が大きくなりがちです。働いている女性とくらべてもこの傾向は変わりません。私たち女性は自分を労働者であると同時に、母親であり、友人であり、よき隣人であると定義しています。つまり自分に対するイメージがいくつもあるのです。これに対して男性の多くは〝あなたを定義するとしたら?〟と質問されると〝ファイナンシャル・アドバイザーです〟で終わってしまう。仕事をアイデンティティとする男性にとって、退職にともなう心理的な負担は少なくありません。
クリスティン:SNSなどのバーチャルコミュニティについてはどうお考えですか? メールやチャットアプリで友人や家族と連絡をとる人は多いです。対面とバーチャルを比較してコミュニケーションの質は変わりますか?
ローラ:これについてはまだ研究すべきことがたくさんあります。私自身も常日ごろから考えている問題なのです。たとえば私には、何千マイルも離れた土地に住んでいる大事な友人がいます。その友人とはよく連絡をとりますが、バーチャルと対面のコミュニケーションの割合をどのくらいにすべきか、まだよくわかりません。
ひとつ考えているのは、バーチャルで連絡する相手のなかでもとくに親しい人たちは、頻繁に顔を合わせてコミュニケーションをとっていた時期があるのではないかということ。たとえば大学の友人や会社の同僚などがこれにあたります。いずれかの時期に対面のコミュニケーションをとったという基礎があれば、バーチャルコミュニケーションは関係性を補ういい手段になります。
問題はバーチャルで知り合った相手とそのままバーチャルで連絡している場合に、強い関係性が生まれるのかどうかで、この答えはまだわかっていません。
いずれにしても私は、バーチャルのコミュニケーションのみに頼らず、ときには対面のコミュニケーションが必要ではないかと考えています。メールや電話だけで連絡をとっている古い友人がいたとして、10年とか20年単位で顔を合わせなかったら、関係性は変わるでしょうか? 二度と会わなかったら? その答えもわかっていません。個人的には時間とともになんらかの変化があっても不思議はないと考えています。
