(※写真はイメージです/PIXTA)
在宅介護の限界…特養への入居を目指したが
肉体的にも精神的にも限界を感じ、さらに経済的負担も日に日に大きくなる中で、ある日の午後、幸子さんは意を決して勝則さんに話を切り出しました。勝則さんは、ぼんやりとした表情で幸子さんの話を聞いていました。
「お父さん、ごめんね。もう、無理みたい」
幸子さんの目からは、止めどなく涙が溢れました。
「特別養護老人ホーム、申し込んだの」
幸子さんの言葉に、勝則さんは何も答えませんでした。きっと何もわかっていなかったのでしょう。しかし幸子さんの手を優しく握り返してくれたそうです。
「それが唯一の救いでした」
特別養護老人ホームへの入居は、幸子さんにとって苦渋の決断でした。夫婦の約束を破ってしまうことへの罪悪感がありましたが、それ以上に、このままではいけないという強い危機感がありました。
3ヵ月後、特別養護老人ホームに入居できた勝則さん。しかし幸子さんは新たな現実を突きつけられました。特別養護老人ホームの費用も、想像以上に高額でした。施設の費用、食費、日用品費、医療費などを合わせると、月に20万円ほどの出費になりました。これは、夫婦の年金収入18万円を超える金額でした。
幸子さんは再び、預金通帳を開きました。残高は、以前にも増して寂しい数字を示していました。勝則さんの介護費用を払うために、貯金は加速度的に減り続けていました。
「もう、どうしたらいいの……」
介護と物価高。二つの重圧が、星田夫婦の老後の生活を苦しめています。特に介護費用は、介護度が上がるに従い、想像以上に家計を圧迫するようになります。介護保険制度があるとはいえ、自己負担分は決して少なくありません。
公益財団法人生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]/2022年度』によると、月々の介護費用は平均9.0万円。介護度別にみていくと、要介護1で5.4万円、要介護2で7.5万円、要介護3で8.5万円、要介護4で12.4万円、要介護5で11.3万円。また在宅介護の場合の平均は5.3万円、施設介護の場合は13.8万円です。このように、介護度や利用するサービスによって大きく変動します。特に、認知症など症状が進行し、手厚い介護が必要となる場合は、さらに高額になる傾向があります。
今後、長寿化が進めば、認知症リスクはさらに高まるでしょう。現役世代はそれを見越して、より資産形成を加速させる必要がありそうです。
[参考資料]
総務省統計局『消費者物価指数(全国、2020年基準)』
公益財団法人生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]/2022年度』