つながりが密な反面、不便な点も…地方移住で受ける“洗礼”

このように、国や地方自治体によって手厚い支援が行われている地方移住。しかし、メリットばかりではありません。

地方部は地域のつながりが密ですから、コミュニケーション能力が必要になってくることが予想されます。また、都心部に比べると選択肢が狭まることから、進学や医療についても問題が増える可能性が高いでしょう。

実際に住んでみて初めてわかることも多いでしょうが、移住したからといって必ず幸せになれるわけではありません。都会で抱えている悩みが、場所を変えたらとたんに解決するわけではないということは認識しておくべきでしょう。

地方移住については、行政とNPO法人が共催で個別相談会や質問会を開いています。トラブルや後悔を少しでも減らすためには、そうしたイベントで話を聞くだけではなく、一度現地に足を運んでみることをおすすめします。

移住案内ツアー(オーダーメイドで施設などをめぐる地区案内)を実施してくれる自治体や、短期でお試し移住が可能なケースもあるため、気になる場所があればチェックしてみましょう。

“得意”と“好き”を生かし、気持ちも前向きに…高山家の「その後」

「保育園、行きたくない」

長男が保育園に行き渋るようになった発端は、動物や虫を怖がって触れないことでした。ずっと虫の少ない都心にいたのですから、無理もありません。

しかし、周りの子どもたちにそのことを揶揄されて泣いてしまい、登園しても園庭に出たがらず、室内でポツンと過ごす日々が続いたそうです。

保育士から話を聞いた夏美さんは、「息子にとって、地方移住が負担になっているのかもしれない」と後悔にさいなまれました。

ところが、室内でのブロック遊びや積み木は得意分野の長男。他の子どもたちから「すごい、すごい」と言われるうちに、笑顔が見られるようになってきました。

一緒にブロック遊びを楽しむ友達も出てきたようで、夏美さんはホッと胸をなでおろします。

「いつまでもなじめていないのは自分だけだわ……」

時間ができたことで、再就職を検討する夏美さん。しかし思うように職場が見つからず、焦りを募らせていました。

そんなとき、夫の敦さんが次のように言いました。

「別にすぐに収入を得なくたっていいじゃない。せっかく移住したんだから、好きなことしなよ」

そして、高山家は相談のうえ、犬を飼い始めることに。子どもたちも、都会の狭いマンションでは飼えなかった犬に大喜びです。

また夏美さんも、犬の散歩などで少しずつ顔見知りが増え、家族以外の人たちとの会話が増えたことで少しずつ前向きな気持ちになっていきました。

地方移住検討の際は、“完璧”を求めすぎず余裕を持って

地方への移住は、正解か失敗かの2択ではありません。家族にとってベストな選択を試行錯誤することこそが、長い目で見た財産といえます。

とはいえ、優先順位を明確にすることが大切です。「暮らす」目線での事前準備や心構え、子どもも親も心地よいかの見極め、そして、完璧を求めずに、失敗したら戻ればいい、くらいの余裕を持っておきたいものですね。


石川 亜希子
AFP