「WPP戦略」で描く、希望ある老後設計

このような収入減少の現実に対して、注目されているのが慶応義塾大学の権丈善一教授や名古屋経済大学の谷内陽一教授が提唱している「WPP」という考え方です。

WPPとは、「Work longer(長く働く)」「Private pensions(私的年金)」「Public pensions(公的年金)」の頭文字をとったもので、人生100年時代の新しい年金受給戦略です。WPPの基本的な考え方は野球の「継投」に例えられます。

まず「Work longer」が先発投手として65歳頃まで働き、「Private pensions」が中継ぎ投手として就労引退から公的年金受給開始までをつなぎ、最後に「Public pensions」が抑え投手として終身給付で人生を締めくくります。

具体的には、50歳頃から自分の会社の役職定年年齢と再雇用条件を確認し、60歳以降もできるだけ長く働ける準備を整えます。同時に、iDeCoやつみたてNISA、退職金の運用といった私的年金の準備を加速させます。そして65歳から70歳または75歳まで公的年金の受給を繰り下げることで、年金額を最大84%まで増額させるのです。

例えば関口さんの場合、55歳で役職定年を迎えた後、関係会社で65歳まで働き、その後退職金と資産運用で70歳9ヵ月まで生活し、70歳9ヵ月から増額された公的年金を受け取ることで、安定した老後を実現できます(図表2のWPP型)。この戦略では、準備する自己資金が少なくて済むのと想定寿命を超えた場合でも、生涯安定した収入を確保できる点が大きな強みです。

※65歳での夫婦の年金見込受給月額27万円(同年齢の妻は国民年金のみ)。 ※想定寿命(95歳)を越えた場合は、収入は27万円の年金のみとなる。
[図表1]従来型:60歳で引退し、65歳から年金受給の場合、必要自己資金は7,000万円超※65歳での夫婦の年金見込受給月額27万円(同年齢の妻は国民年金のみ)。
※想定寿命(95歳)を超えた場合は、収入は27万円の年金のみとなる。
(著者作成)
※65歳まで働き、公的年金受給を70歳まで繰下げた場合 ※65歳での年金見込受給月額27万円×69ヵ月(65歳~70歳9ヵ月)×0.7%≒40万円 ※従来型に比べて、自己資金の必要額は約4,300万円少なくて済む。 ※想定寿命を超えた場合でも、生涯40万円の年金収入。 ※WPPの概念をわかりやすく説明するために、税金・社会保険料等は考慮せず。
[図表2]WPP型:65歳まで働き、70歳9ヵ月まで年金受給を繰下げた場合、必要自己資金は2,700万円程度まで減らせる※70才9ヵ月での年金見込受給月額=65歳での年金見込受給月額27万円×(100%+69ヵ月(65歳~70歳9ヵ月)×0.7%)≒40万円
※従来型に比べて、自己資金の必要額は約4,300万円少なくて済む。
※想定寿命を超えた場合でも、生涯40万円の年金収入。
※WPPの概念をわかりやすく説明するために、税金・社会保険料等は考慮せず。
(著者作成)