(※画像はイメージです/PIXTA)

少子高齢化などを背景に医療ニーズが年々高まる一方、医療業界においては深刻な人材不足が喫緊の課題となっています。医師や看護師といった専門職だけでなく、受付スタッフなどの非専門職人材も不足しているのが現状です。そこで今回、医療業界に特化したコンサルティングを行う船井総研の伊佐常紀氏が、「医療DX」を活用して人材不足を解決する具体策とそのポイントを解説します。

医療業界が頭を悩ませる「受付スタッフ」の人材不足

近年、医療業界において、採用難・人手不足は深刻な問題となっています。

 

医師や看護師といった専門職の人材も不足していますが、非専門職である受付スタッフについても、他業界の人件費高騰により人材が流出している状況にあります。

 

受付は患者との最初の接点となる重要な役割にもかかわらず、採用が難しくなったり離職が増えていたりと、悩む経営者が増えてきました。

 

受付スタッフが定期的に退職してしまうと、採用コストの増大だけでなく、残ったスタッフへの負担増加、ひいては患者へのサービス低下にも繋がります。スタッフが働きやすく、患者満足度の高い“理想のクリニック”をつくることは難しくなってしまうでしょう。

 

「優秀な受付スタッフが育ち、ずっと辞めずにいてくれたら……」

 

筆者もこうした現場からの声をよく耳にします。

 

「診療時間=勤務時間」のクリニックにおいて、教育にお金と時間をかけることは困難です。仮に教育コストをかけたとしても、すぐに辞められてしまっては、かけたコストが無駄になってしまいます。

 

■「一筋の光」となりえる医療DXの一手

現状、人材不足に悩む開業医の先生方に対しては「人がしなければいけない業務」と「人がしなくてもいい業務」を明確にし、前者には教育コストをかける投資を行い、後者には「医療DX」を導入することをおすすめしています。

 

医療DXの具体策としてはさまざまな方法があります。その第一歩として導入するクリニックが増えているのが「セルフレジです。

 

セルフレジの導入は、会計業務における「人がしなくてもいい業務」の自動化が叶い、受付スタッフの負担も軽減でき、結果として離職率の低下にも繋がる可能性を秘めています

「セルフレジ導入」が“辞めない受付スタッフ”を育てるワケ

具体的なデータはまだ少ないものの、実際セルフレジを導入する医院は増えています

 

新型コロナウイルスが流行した2020年を境に、お金の受け渡しがなく衛生的という、いわば「感染症対策」を目的に導入するクリニックが増加。いまでは「省人化・効率化」を目的に導入しているクリニックが多いようです。

 

セルフレジの主な導入メリットとしては、以下の点が挙げられます。

 

受付スタッフの負担軽減:会計業務を自動化することで、スタッフは患者対応や予約管理など、「人がしなければいけない業務」に専念し、患者に寄り添った業務ができる。

待ち時間の短縮:会計待ちの列が解消され、患者満足度の向上に繋がる。

人的ミスの削減:会計処理のミスが減り、現金の取り扱いに関するリスクを軽減できる。

感染症対策:非接触での会計が可能となり、患者とスタッフ双方の感染リスクを低減できる。

データの分析・活用:患者の支払い傾向などを把握し、経営改善に役立てることができる。

 

このように、セルフレジの導入は業務効率化と心理的負担の軽減が叶い「働きやすい環境」の実現に貢献します。つまり、1度雇ったスタッフが定着しやすくなり、「辞めない受付スタッフ」が育ちやすい環境をつくることができるのです

 

そこで以下では、セルフレジ導入の有効性を具体的に示すため

 

5年間リースを行った場合のランニングコストと
人材採用コストおよび会計業務にかかる人件費を比較し、シミュレーションを行いました。

 

セルフレジ導入費VS.人件費…コスパがいいのはどっち?

では、セルフレジ導入にかかるコストと、人材採用コストおよび会計業務にかかる人件費を比較してみましょう。

 

■セルフレジ導入コスト(5年リースの場合)

ここでは、一般的な機能を持つセルフレジを、5年リースで導入した場合について想定します。

 

セルフレジ本体リース料:月額4万円

5年間(60ヵ月)の総リース料:4万円×60ヵ月=240万円※1、※2
※1 導入するレジが自立型か卓上型かによって、総額100万円ほど前後する
※2 メーカーによって費用は異なる。


■設置費用:10万円
※ 初期費用として1回のみ発生。

■ランニングコスト月額5万円

5年間のランニングコスト:5万円×60ヵ月=300万円

セルフレジ導入にかかる5年間の総コスト

=240万円+10万円+300万円=550万円

 

■人材採用コストおよび会計業務にかかる人件費(受付スタッフ1名の場合)

次に、受付スタッフを1名採用し、5年間雇用した場合のコストを試算します。

 

■求人広告掲載費:10万円
※ 採用1回あたり。面接や選考にかかる人件費も含む

 

■年間給与:330万円

5年間の給与総額:330万円× 5年=1,650万円
※ 月給22万円、賞与66万円と仮定

 

■社会保険料(事業主負担分)年間給与の約15%

5年間の社会保険料総額:330万円×0.15×5年=247万5,000円

 

■教育費年間5万円

5年間の教育費総額:5万円×5年=25万円

受付スタッフ1名にかかる5年間の総コスト(退職なしの場合)

10万円+1,650万円+247万5,000円 + 25万円=1,932万5,000円

コスパだけじゃない…セルフレジ導入が生む「付加価値」

上記シミュレーションでは、セルフレジを5年間リースした場合のコストが約550万円であるのに対し、受付スタッフ1名を5年間雇用した場合のコストは約1,932万5,000円となり、約3.5倍コストに違いがあることがわかりました。

 

もちろん、セルフレジを導入したからといって、受付スタッフが不要になるわけではありません。しかし、会計業務スタッフの行動分析をしたところ、セルフレジを導入することで業務時間が全体の約50%減少することがわかっています※1、※2

 

※1 ここでの「業務時間」とは、①患者がカバンから財布を取り出すまでの待機時間、②患者が財布から金銭を取り出すまでの待機時間、③スタッフが患者から受け取った金銭をレジに入れておつりを出すまでの時間、④患者がおつりを財布に入れてカバンに財布をしまうまでの待機時間、⑤患者さんが会計を終え窓口からいなくなるまでの待機時間を総合したもの。

※2 あくまで複数の整形外科医院の事例であり、目安。

 

仮に、全体業務のなかの50%の業務が削減されるとなると、

 

1,932万5,000円×50%=966万2,500円


と、会計業務にかかる人件費を約1,000万円カットすることが可能です。

 

さらに、人件費をカットするだけでなく、セルフレジ導入によって浮いた時間で付加価値を生み出す業務ができるため、さらなる売上アップも期待できます。

 

また、採用に至るまでの時間的コストや、スタッフが入れ替わるたびに発生する教育コスト、既存スタッフのストレスなどを踏まえると、差額の約416万2,500円(966万2,500円-550万円)以上のコスト削減効果が期待できます

 

セルフレジの導入は初期投資こそ必要となるものの、長期的な視点で見ると、人材採用・教育・会計業務にかかる人件費等のコストを大幅に削減し、安定したクリニック運営に貢献する可能性を秘めているといえるでしょう。

 

■医療DXがスタッフ・患者双方の「理想のクリニック」をつくる

ここまで見てきたように、セルフレジの導入は、会計業務の効率化や患者の待ち時間短縮、人的ミスの削減に加え、新たな付加価値を創出する、業務時間の捻出ができるなど、効率化だけではない多くのメリットをもたらします。

 

売上アップによって給与を上げることができれば、人材流出の原因がまた1つ減ることになります。受付スタッフの負担を軽減して働きやすい環境を作ることによって、離職率の低下に繋がるでしょう。

 

もちろん、これだけですべての課題が解決するわけではありません。しかし、人手不足や採用難に悩む開業医にとって、セルフレジは心強い味方となりそうです。

 

医療DXの導入は、未来のクリニック経営をより安定させて「患者にもスタッフにも優しいクリニック」の実現に貢献します。この機会に、医療DXの第一歩として、セルフレジの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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著者:伊佐 常紀

株式会社船井総合研究所

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