「老人ホーム」を検討する際の注意点

「最期まで自宅で暮らしたい」という思いは、多くの高齢者に共通したものです。実際、公益財団法人日本財団が実施した「人生の最期の迎え方に関する全国調査」によると、人生の最期を迎えたい場所について、およそ6割が「自宅」と回答しています。

ただ、現実的には身体機能の低下や認知症の進行などで、自宅での生活が難しくなるケースも少なくありません。

高齢者施設への住み替えを検討するタイミングとしては、下記の3つが挙げられます。

1.体力・判断力が万全な状態

体力・判断力が十分にあり、本人の意思で施設選びや引越し準備ができるタイミング。この時期であれば、居室や周辺環境に慣れる時間も確保できます。

ただし、経済面では、居住期間が長くなる分、費用負担も大きくなるため、自宅の売却益や貯蓄を活用して計画的に資金を準備する必要があります。

2.介護状態になったとき

転倒や病気で身体機能が落ち、自宅での生活が難しくなったタイミング。緊急度が高いほど住み替え先を吟味する余裕がなく、空きがある施設を選ばざるを得ないこともあります。

引越し準備や各種手続きも、本人や家族にとって負担が大きくなりがちです。

3.一方の配偶者が亡くなったとき

配偶者に先立たれたあとは、急に孤独感や不安感が増す人が多く、心身の健康を損ねるリスクがあります。

家事や日常生活のサポートが必要な場合、自宅での単身生活に限界を感じやすく、施設への住み替えを検討する大きな契機になります。

こうしたタイミングに正解はありませんが、それぞれの事情や“終の棲家”への思いを踏まえ、最適な選択肢をとりたいものです。

「懐事情」も見逃せないポイント

高齢者住宅への入居には、入居一時金や月々の家賃、管理費、生活支援サービス料など多くの費用がかかります。

入居金なしの月額払いプランもありますが、毎月の固定費は高額になる場合が少なくありません。さらに介護度が上がると追加費用が発生し、想定以上に資金が必要になることもあります。

「どのタイミングで住み替えるか」は、健康状態や家族状況だけでなく、老後の生活資金計画と密接に関わっています。老後資金全体を見渡し、医療・介護費用の備えも含めて検討することが、後悔しない住まい選びのカギとなるのです。

妻が亡くなったあと、夫婦で住める居室から単身用の居室へ引越した一則さん。最近は少しずつ体力の衰えを感じつつも、夏休みに孫に会えることを楽しみに、施設内のジムでトレーニングに励んでいるそうです。
 

大竹 麻佐子
ゆめプランニング 代表
ファイナンシャルプランナー(CFP🄬)
相続診断士