晩婚化や長引く景気低迷などさまざまな背景から、近年「高齢の親と未婚の子」という家族構成の世帯が増えています。たとえ子どもが順調なキャリアパスを歩んでいたとしても、この「高齢の親」の存在が将来に悪影響を与える場合もあるようで……。事例をもとに詳しくみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
話がある…〈年収1,500万円〉〈貯金4,000万円〉湾岸タワマン住まいの56歳サラリーマン「リビングに居座る79歳母」に告げた“苦言”【CFPの助言】
Aさんの将来は大丈夫?
Aさんは現在の資産状況と収支を照らし合わせたうえで、深刻な状況にはないと考えていました。しかし、第三者の視点から冷静に見てもらおうと、知り合いのファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。
Aさんから一連の話を聞いたFPは、AさんとBさんの家計収支を整理してみることに。まず、Aさんの家計状況と今後の収支見込は下記のとおりです。
〈収入〉
■現在(56歳)
・年収:1,500万円
■60歳以降(~70歳まで)
・別の会社に転職して70歳まで勤務を希望。年収1,000万円は確保したい。
■70歳以降
・老齢厚生年金は「繰下げ受給」を選択し、5年繰り下げて42.0%増額される年金を受給予定。
〈支出〉
■現在(56歳)
・生活費:月約32万円
・住宅ローン返済額:月約20万円
……完済まであと10年、残債約2,000万円
・貯金:月50万円
・貯蓄残高:約4,000万円
現在のAさんの家計収支バランスはよく、貯蓄額も定期的に増加しています。また、Aさんが心配していたBさんに係る費用も、家計が揺らぐような金額ではありません。また貯蓄も十分にあることから、Bさんに対して神経質になりすぎる必要はないでしょう。
むしろ問題は、母Bさんの家計です。
〈収入〉
■夫Cさんが存命のころ
・年金収入:月約27万円
……夫の老齢厚生年金+自身の老齢年金
■現在(79歳)
・年金収入:月約17万円
……夫の遺族厚生年金+自身の老齢年金
・貯蓄残高:約1,000万円
Bさんの収入は上記のように、夫のCさんが存命のときに比べ、3分の2以下に減っています。そのため、Bさんが今後も実家で1人暮らしをするには、年金収入だけでは足りず、年に何度か貯蓄を取り崩す必要があります。
さらに、築年数が経った実家は近々リフォームが必要であるほか、今後は介護や看護も必要になる可能性が高いでしょう。入院や介護施設に入居する場合、Aさんの援助が必要になりそうです。
一方、今後Bさんが本格的にAさんのマンションに同居する場合、Aさんの支出額は食費などがいくぶん増加するでしょうが、家計への影響は限定的でしょう。
「現在の状況から推察するに、釈然としない思いはあるかと思いますが、金銭面から考えるとお母さまとの同居も選択肢のひとつです」
FPがここまで話すと、Aさんは「なるほど……ありがとうございます。お金の面と心理的な面両方考えて、今後どうするか改めて母と話し合ってみます」といって、その日は帰られました。