吉雄さんはどうすればいい?

吉雄さんから相談を受けたFPは、今回のトラブルを解決に導く方法として、下記の3つを提案しました。

1.親自身の老後資金の確保

現時点で夫婦に十分な貯蓄があるとはいえ、将来的には医療費や介護費など、突発的にまとまった支出が必要となるかもしれません。したがって、予備費を考慮したうえで、生涯にわたって資金繰りに問題がないか冷静に判断する必要があります。息子への援助の可否は、自分たちの老後資金が確保できることがわかってから判断するようにしましょう。

2.資産承継に関する親子間の話し合い

中山夫婦と聡志さんは、これまで相続や生前贈与について具体的な話し合いをしていませんでした。自分たちの「老後の暮らし方や介護の希望、資産の使い道」などを率直に伝える機会を設け、価値観を共有することから始めましょう。

3.援助の目的と条件の明確化

援助する際は「住宅購入資金として〇円を援助するが、これを最後に今後援助は行わない」など、目的や条件を明確にすることも重要です。

また、資金援助は贈与だけでなく「貸付契約」という方法もあります。この方法の場合、子に返済義務が発生することにより、「お金の重み」や「責任」を認識させ、自立を促すことができます。

中山家の「その後」

FPの助言をもとに、夫婦は後日、息子を呼んで話し合いの場を設けることに。そして、資金援助について、下記のように考えを述べました。

吉雄さん「助けたい気持ちはあるが、俺たちの老後資金にも限りがあり、慎重に使いたい。資金援助はしてやってもいいが、どうかお前たちも、身の丈にあった生活をしてお金を大事にしてもらいたい」

これに対し聡志さんは素直に謝罪したうえで、次のように言いました。

聡志さん「あの日『見損なった』って言われてハッとしたんだ。あれから家計と生活設計を見直して、妻もパートを始めるって言ってる。これからは頼るばかりじゃなく、父さんたちを支える側になれるように頑張るから安心して。こないだ言ってたマイホームの頭金はいらないよ。ほんとにごめん」

腹を割って話したことで、息子の心情にも変化が見られたようです。吉雄さん夫婦と聡志さんは、お互いに清々しい気持ちで話し合いを終えました。

吉雄さん「まとまった額の援助は行いませんが、これからも無理のない範囲で子や孫の助けになりたいと思います」

「年を重ねた親子関係」のあり方

消費者庁の「令和5年版 消費者白書」によると、65歳以上の約7割が「家族や友人・知人の役に立ちたい」と回答しており、年齢を重ねてもなお「家族の役に立ちたい」という思いは、多くの高齢者に共通する心情といえるでしょう。

しかし、こうした思いと「お金の話」を混同してしまうと、かえって親子の関係にひずみを生む恐れもあります。

子どもが困っていれば助けたい……そう思うのは、親としてごく自然な気持ちです。特にお金の援助は手っ取り早く、子どもにも感謝されやすいため、つい手を差し伸べたくなります。

しかし、そうした支援が常にいい結果をもたらすとは限りません。人生100年時代、老後を堅実に生きる姿を見せることも、長い人生を通じた資産形成の大切さを伝える方法のひとつといえます。年を重ねたからこそ果たせる親としての役割というのもあるはずです。
 

山原 美起子
株式会社FAMORE
ファイナンシャル・プランナー