息子の“おねだり”に失望…父がとった行動は

これまでも、孫の誕生や入園・入学などの折に、祝い金としてこまめに金銭的援助をしてきた吉雄さん。

「ゆくゆくは息子に少しでも多く財産を残せてやれたら」とは考えていたものの、まさか息子のほうから無心されるとは思っておらず、裏切られたような思いです。

吉雄さん「見損なったよ。自慢の息子だと思ってたのに……もう少し考え直せ」

吉雄さんはそう言って、電話を切ってしまいました。

(息子を助けたい気持ちはあるが、頭金を負担してほしいだと!?……乱暴にもほどがある。俺たちは働いてるわけでもあるまいし、貯金から切り崩したら老後資金がなくなってしまう……)

息子を思う気持ちと息子の態度、そして要求金額の大きさに板挟みになり、吉雄さんは困り果ててしまいました。

そこで、資産形成を行うべきか、行う場合は金銭的に問題ないかどうか、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。

老後資金は“最後の砦”

聡志さんの「節約したくない」「相続よりいまもらいたい」といった発言には、親からの援助を当然視する無自覚な甘えや依存が見受けられます。

しかし、税制上の優遇措置を知っていた息子さんが、「計画的に資産を移転できれば親にとっても損な話ではない」と考えたこと自体は、見方を変えれば合理的な判断といえるかもしれません。

近年は国としても、高齢者の資産を若い世代へ移転するよう勧めています。諸条件はあるものの、親族間の贈与には以下のような制度が整備されています。

住宅取得資金の贈与
……最大1,000万円が非課税、省エネ住宅等が対象

教育資金の一括贈与
……最大1,500万円が非課税

・暦年贈与の非課税枠
……年間110万円までが非課税

実際、不動産流通推進センターの調査によると、マイホーム購入者の1割強が親から贈与を受けており、そのうち約4割が「1,000万円超」という高額の贈与となっています。

とはいえ、親御さんにとって老後資金は「人生の安心を支える最後の砦」です。制度を盾にそこへ踏み込まれるとなれば、抵抗感が生まれるのも無理はありません。節税の視点も大切ですが、親子それぞれの経済的自立を出発点にしなければ、健全な資産承継は叶わないでしょう。

また、PGF生命の調査では、2人に1人が「親から金銭支援を受けたことがある」にも関わらず、7割強の子どもは親の資産状況を把握していないことが明らかになっています。

お金に関する十分なコミュニケーションがなく、親の資産を譲り受けることを単なる金銭授受と考えてしまうと、たとえ普段から良好な親子関係が築けていても、お互いの認識に大きなズレが生じ、不仲やわだかまりの原因となる可能性があるため要注意です。