「家族だから」の重圧から解放される現実的対処法

和代さんのような悩みを抱える家族にとって重要なのは、「家族だから無制限に支えなければならない」という思い込みからの解放です。

実は2021年に生活保護制度が改正され、申請する本人が扶養照会を拒否できるようになりました。また、兄弟姉妹への扶養照会があっても、扶養を断ることは可能です。法的な扶養義務はあっても、自分の生活を犠牲にしてまで支援する必要はありません。

8050問題の深刻化を受けて、国や自治体の支援体制も大きく変化しています。引きこもり支援が中高年層にも拡充され、現在は全国の都道府県・指定都市に「引きこもり地域支援センター」が設置され、年齢を問わず相談を受け付けています。

これらの支援センターでは、社会福祉士や精神保健福祉士などの専門家が、引きこもり当事者やその家族に対して、適切な支援に結びつける仕組みです。また、多くの市町村でも独自の相談窓口を設けており、より身近な場所で支援を受けることが可能になりました。

こうした公的な支援を受けることを前提に、和代さんのように母親が存命のうちに準備できることをアドバイスします。

まず重要なのは、母親が亡くなったあとの達夫さんのライフプランを本人と話し合う必要があります。達夫さんのように長期間引きこもっている場合でも、在宅ワークやオンラインでできる仕事など、人と直接会わずにすむ就労の可能性を探ってみてもよいでしょう。

生活面では、最低限の自炊や洗濯などの家事スキルを身につけてもらいます。母親が寝たきりになる前に段階的に自立した生活習慣を身につけておくと、将来への不安を軽減できます。

また、相続についても事前の話し合いが重要です。達夫さんの住まいをどうするか、現金の分配について明確にしておけば、後々のトラブルを防げます。

手続き面では、生活保護申請や各種届出について、達夫さんに理解してもらいましょう。ただし、引きこもりの人は不安から現実逃避しているケースが多いため、一度にすべてを説明するのではなく、段階的に情報を伝えるといった配慮が必要です。

姉である和代さんが「経済的な支援はできないが、手続きの同行や情報提供など、お金以外のことはしっかりサポートする」と伝えると、達夫さんも安心できるはずです。母が亡くなってからも和代さんが見放すことはないとわかれば、先の見えない生活に希望を持てるようになるかもしれません。

引きこもり問題の解決は簡単ではありませんが、公的な支援を仰ぎながら、できることを少しずつ進めていきましょう。

松田聡子
 CFP®