バブルの時期にマンション建設ラッシュが起こるほどリゾート地として栄えたエリア。そのマンションが今ではタダ同然で手に入ることも少なくありません。そういった格安物件に魅かれる人は少なくありませんが、無計画で購入に踏み切れば思わぬ代償を支払うことになることも……。今回は、定年退職を機にリゾート地へと移住した男性の事例と共に、移住先を選ぶ際の注意点を小川洋平FPが詳しく解説します。
これは無理だ…年金月11万円、資産500万円の66歳元会社員、「東京は高すぎる」と新潟でリゾートマンション購入。「タダ同然の安さ」に歓喜→移住も、1年足らずで「もう帰りたい」苦悩の日々【CFPの助言】
安さの裏にある「見えないコスト」
リタイア後の生活の選択肢として、都会の喧騒を抜け出してリゾートマンションや田舎暮らしをすることに魅力を感じる人は多いものです。しかし、「安さ」だけで飛びつくのは危険です。
確かに地方では家賃も土地価格も安いのですが、そのぶん公共交通は不便です。電車は駅が近くても1時間おき、2時間に1回程度しか電車が通らないような場所も多く、バスも同様です。特に佐野さんが移住した苗場は、最寄りスーパーまで20~30分程度かかる地域で、日常の移動には自家用車が必要不可欠です。
ましてや日本海側の豪雪地は除雪に掛かる費用や作業、冬場の光熱費の増大など、身体的にも経済的にも負担になるでしょう。また、冬場の買い物は除雪と冬道の運転がセットで、運転に不慣れな人にはこちらも大きな負担となることが想定されます。
こういった、その地域で暮らす住民の生活事情を知らずに移住すると、後悔することも少なくありません。まずは移住前に「試住」してその地域での生活を体験してみたり、実際に住んでいる人の声を聞いたり、季節ごとの生活をイメージしておくなど、情報収集しながら移住先を選ぶことで、イメージと現実のギャップを減らすことができるでしょう。ひいては、自分に合った移住先を見つけることができるのではないでしょうか。
また、佐野さんが選んだ物件では管理費が2万円程度と低めでしたが、なかにはプールや大浴場などがあり、管理費が4万円程度にもなる物件もあります。
0円の物件も存在してはいますが、実際にはあまり使うこともない共用部分の管理費用のために高額な管理費用を払うこともあります。また、老朽化して取り壊しや建て替えが必要になれば、その費用はマンションの所有者が負担することに。こういった「見えないコスト」にも注意が必要です。
もし住居費の負担を抑えたいのであれば、関東近郊で賃料の安い地域に住むことも選択肢のひとつといえます。たとえば、埼玉県や千葉県の郊外では比較的家賃も安く、都心へも電車で1本、時間でいえば30分程度で行ける場所もあり、短期・単発のアルバイトも豊富で時給も高めです。
移住先を決める際には、住居費の安さだけで考えず、生活のしやすさや収入の確保という点も考慮しましょう。
移住は単なる引っ越しではなく、生き方そのものの再構築
「老後は自然に囲まれて静かに暮らしたい」という希望をお持ちの方にとって、地方への移住は適した選択肢といえるでしょう。しかし、移住先でどんな生活が待っているかを具体的にシミュレーションすることはとても重要です。
移住とは、単なる引っ越しではなく、生き方そのものの再構築です。その土地の気候、地理、交通、労働、コミュニティ、すべてを総合的に受け入れ、自分に合った生活が望める土地なのかを判断しなければ、「夢の生活」は簡単に「後悔の人生」へと変わってしまいます。安さや雰囲気だけで安易に選択して後悔しないよう、くれぐれも慎重に考えましょう。
小川 洋平
FP相談ねっと