甘くなかった…冬の訪れとともに知った過酷な現実

佐野さんが移住したのは春。山々の緑は美しく、近隣には温泉もあり、静かで過ごしやすい環境でした。

しかし、快適な生活は束の間で、11月になると雪が降りはじめます。12月も半ばごろになると、朝起きたときには駐車場に停めてあった軽自動車が雪に埋もれてしまうほどの大雪が毎日のように降るようになりました。消雪パイプだけではとても間に合いません。車には高さ1メートル以上の雪が積もり、自力で除雪しなければなりませんでした。

移住後、地元のスキー場にあるレストランでアルバイトとして働くことにした佐野さんでしたが、慣れない除雪作業に時間が掛かり、出勤時間に遅刻してしまうことも。

降り続いた雪で周囲には4mもの雪壁がそびえる状況。出勤しようにも、まず早朝から除雪作業を行わなければなりません。自分の車の周りに積もった雪をスコップで掘り出し、全身運動にも近い重労働をしないと車を出せないのです。また、帰りも車に降り積もった雪を落としたり、雪が降らなければ凍り付いた窓ガラスの氷が溶けるまで待ったり、ときには車のドアが凍りついて開かないということも。

冬になってから過酷な日々が続くようになると、佐野さんは「何年も、こんな生活は無理かもしれない」と思うようになりました。

そして、雪のほかにもう1つ、佐野さんの頭を悩ませることがありました。それは車の維持費です。思ったよりも高額で、ガソリン代や自動車保険料などを合わせると、都心近郊の安いアパートで生活しているのとあまり大きく変わらないことに気がつきました。

そして春になった頃には、佐野さんは新潟での生活に限界を感じていました。静かな自然に囲まれた静かな暮らしは魅力的です。しかし、それはあくまで“非日常”だからこそ楽しめるもの。年中住むにはあまりにも不便で厳しすぎることを痛感しました。

都内に戻ることも頭をよぎりますが、家賃や引っ越し代、敷金・礼金などといった支出を考えると、思いきって戻ることもできずに悩んでいます。