“淡泊な反応”の裏にあった母親の思い

マンション購入前までは、遠方にもかかわらず「おすそ分けしたいから」「孫の顔を見たいから」などと、理由をつけて頻繁にユウキさんのもとを訪れていたシズエさん。

「なんで来てくれないんだろう……」

母・シズエさんは、25歳のときに結婚。しかし、なかなか子宝に恵まれず、シズエさんが32歳のときにようやく誕生したのがユウキさんでした。

両親は息子の誕生を、「奇跡だ」と大喜び。特に、シズエさんの溺愛ぶりは相当なものだったといいます。ユウキさんが思春期になってもそれは変わらず、「息子の希望はなんでも叶えてあげたい」とユウキさん中心の生活を送りました。

そのため、ユウキさんが「東京の大学に進学したい」と言ったとき、内心寂しい思いがあったものの、「息子の希望だから」とグッと飲み込み、ユウキさんを笑顔で送り出しました。

しかし、このとき息子を無理に引き留めなかった理由がもう1つあります。「ユウキはいつか絶対自分のもとに戻ってくる」という確信があったのです。

ところが、ユウキさんは大学を卒業し、そのまま都内の会社に就職。33歳でハルカさんと結婚したあとも、ユウキさんに地元静岡に戻る選択肢はありませんでした。

なかなか「実家に戻る」と言い出さないユウキさんに、なんとか自分を納得させるように過ごしていたシズエさん。しかし、2年前に夫が他界すると、寂しさと心細さから鬱積していた思いが一気に膨らみます。

「夫が亡くなって、私が寂しい思いをしてるって、息子はきっと気づいているはず。これできっと息子は戻ってきてくれる。そして、ずっとこの家で一緒に暮らしてくれるに違いない!」

しかし、同居の話は一向に出ないまま、月日だけが流れます。

そんな矢先、ユウキさんからあった連絡が「神奈川にマンションを買う」というもの。仕事の都合と娘の教育環境を考慮して決断したと息子は言いますが、これでまた同居が遠のいたことになります。

「もう……なんなのよ……」

一方的に膨らませていた期待が裏切られ、シズエさんが受けたショックは相当なものでした。