2025年4月30日、EIOPA(European Insurance and Occupational Pensions Authority、欧州保険・年金監督局)から年金基金分野・保険分野のリスクダッシュボードが公表されました。これはEU内の年金基金と保険それぞれにおける主なリスクと脆弱性、今後の見通しを要約したものです。本稿では、ニッセイ基礎研究所の安井義浩がこの報告書に基づいて、保険と年金基金における各種リスクについて詳しく分析します。
保険と年金基金における各種リスクと今後の状況――EIOPAが公表する報告書(2025年4月)から (写真はイメージです/PIXTA)

年金基金分野

年金基金分野のリスクカテゴリー分類は、保険分野とほぼ同じではあるが、年金基金の貯蓄性が強いことや、特に確定給付年金においては、責任準備金を対応する資産でカバーできていることが重視されるなど異なる視点があるので、リスク評価の観点に若干の違いがある。

 

報告書内の図を、筆者が再作成。その際、今回変更された箇所を黄色で示した。
[図表2]年金基金分野 報告書内の図を、筆者が再作成。その際、今回変更された箇所を黄色で示した。

 

〇 マクロリスクは中程度の水準で、GDP成長率予測はマイナス方向に動いている。年金基金の主要地域の平均GDP成長率予測は、2024年第4四半期は1.4%(前四半期 1.5%)とわずかに悪化し、インフレ率の予測は2.4%と安定している。保険分野と同様に、今後、米国による安全保障への関与と自由貿易への取組みを巡って不確実性が増し、マクロ経済に大きな影響を与える可能性が高くなっている(今後の予想を横這いから増大方向へ変更)。

 

〇 信用リスクに関しては中程度のレベルにとどまっている。

 

〇 市場と資産の収益リスクは、引き続き高水準のままである。債券のボラティリティが2024年第4四半期末時点における、債券市場と株式市場のボラティリティの高まりにより今後のリスクも増大傾向にある。保険分野と同じく、2025年4月に発表された米国の新たな関税導入に市場は大きく反応し、政策の不確実性と更なるエスカレーションによる資産価格変動の可能性が高まっている。(横這いから増大方向に見通しを変更)

 

〇 流動性(資金調達)リスクは中程度で、2024年第4四半期の金利上昇を受けて、デリバティブ時価総額が減少している。年金基金分野は、流動性の低下に対して今のところ耐性があるようだが、市場の急激な変動に備えて、継続的な流動性管理が求められる状況が続く。

 

〇 確定給付型基金の準備金と資金調達のリスクは中程度であるが、財務状況はやや悪化した。2024年第3四半期の資産の負債超過率(中央値)は17.9%(前四半期 20.4%)(中央値)である。

 

〇 集中リスクは中程度である。

 

〇 ESGリスクも中程度で安定している。株式・社債のうち気候関連資産のエクスポージャーについては、中央値は横ばいで0.6%であった。社債に占めるグリーンボンドへの投資割合は2024年第4四半期には9.4%(前四半期 8.0%)へと上昇した。しかし今後は、環境協定の動向の変化により、長期的な目標に向けた進歩が困難になると予想される。

 

〇 デジタル化とサイバーリスクは、保険分野同様に、現時点では中程度のレベルにとどまっているが、現在の地政学的状況をみると、サイバー攻撃の脅威は引き続き大きな懸念事項となる。

おわりに

今後も、米国の動きや地政学的な状況の変化などで、急激な変化が懸念される項目がある。

 

サイバーリスクについては、大きな懸念があることは想定できるものの、定量的な指標として、「サイバーリスクに対する懸念を示す保険会社や年金基金の数」や「サイバー攻撃の件数」しかなく、今後の評価のために一層の改善が必要とされる項目もあると考えられている。