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「自分は大丈夫」という“思い込み”が家族を苦しめる
厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」によれば、母子世帯の平均年収は約243万円。この金額も1世帯あたりの教育費や生活費を考えれば、決して十分とはいえない。美咲さんの場合、現状では13万円×12=156万円と平均額にもおよばない。
また、生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査」によると、遺族が死亡保険金として「必要」と考える金額の平均は約3,350万円。一方で、実際に受け取っている平均額は約1,600万円と大きなギャップがある。
つまり、保険に「入っていなかった」「保障が足りなかった」ことで、残された家族の生活が大きく制限されている現実があるのだ。
なお、美咲さん一家が住宅購入時に加入していた「団体信用生命保険」とは、住宅ローンの債務をカバーする制度で、名義人が亡くなった際にローンが免除されるというもの。しかし、これはあくまで「住宅」という資産を守るものであり、「家族の生活」や「子どもの教育費」までカバーするものではない。
死亡保険未加入の理由として多いのが、「自分はまだ若いから」「万が一は起きないと思っていた」という“思い込み”だ。しかし、公益財団法人日本AED財団によると、1日に約250人、およそ6分に1人が心臓突然死で亡くなっているという。健康に見える人にもリスクは常に存在しているのだ。
あのとき保険に入っていてくれたら…美咲さんの拭えぬ「後悔」
祐一さんの死から3年。美咲さんはいまも仕事と家事を両立させながら、子どもたちを育てている。公立高校に通う長男のりくくんは現在、地元の大学への進学を目指し、夜間アルバイトをしながら学費を貯めているという。
「もし、あのとき保険に入っていてくれたら、子どもたちの選択肢を狭めずに済んだかもしれません」
そう語る美咲さんの目には、後悔の涙が浮かんでいた。
保険は「残された人たちの選択肢を守るため」のものだ。生命保険の本当の価値は、“いない自分”に代わって家族の人生を支え続けてくれる点にある。
愛染 興希
ファイナンシャルプランナー