最高裁判所「司法統計年報」によると、遺産分割事件の数は毎年1万件を超えています。日本で相続トラブルが絶えない背景にはどのような要因があるのか、故人の“衝撃的な事実”が発覚した事例をもとに、相続トラブルに陥る原因と回避するポイントをみていきましょう。ゆめプランニング代表の大竹麻佐子CFPが解説します。※プライバシー保護のため登場人物の情報を一部変更しています。
あなた、誰?…資産3億円・享年90歳の資産家父の葬儀に現れた55歳“自称息子”に大混乱→修羅場を覚悟した「遺産分割協議」がスムーズに終結した“まさかの理由”【CFPの助言】
突然の“自称息子”の登場に修羅場を覚悟したが…
葬儀終了後、相続人である長男Bさんと次男Cさんは、重い心持ちで家に帰りました。
遺産分割協議の準備に取りかからなければなりませんが、“自称息子”が現れたいま、協議は難航することが目にみえています。
B「Xさんが本当に息子かどうかもわからないのに、親父の3億円をどうやって分ければいいんだ?」
C「あいつ、親父の遺産目当てなんじゃないか?」
困り果てていた兄弟でしたが、覚悟した“修羅場”は生まれませんでした。協議は驚くほどスムーズに進み、すべての相続人が納得のいく形で終結したのです。
弁護士が兄弟に見せた「1通の書類」
遺産分割協議当日、Xさんは弁護士とともにやってきました。
その弁護士は、XさんがAさんの実子であるという事実を冷静に伝えると、持参した遺言書を兄弟に見せました。
その遺言書には、Aさんの直筆で、過去の過ちを深く悔いるとともに、Xさんにも遺留分相当を相続させるよう明記されていました。
X「僕はただAさんに感謝を伝えたかっただけで、遺産を強引に奪い取ろうなんてそんなつもりはありません。もしもBさんやCさんがこの内容に納得いかない場合、1円もいただかなくったって私は構いません」
Xさんは、落ち着いた物腰で言いました。
遺言書を預かっていた弁護士は父の生前からの知り合いで、Xさんのことも知っていたとのこと。父の遺志を伝えるとともに、その後も相続人全員が納得のいくよう、遺産分割協議の調整役を担ってくれました。
兄弟は初めて知る父の事実に当初戸惑いましたが、X氏の終始穏やかな態度と弁護士の助言もあり、最終的には遺言書どおりに相続することにしたそうです。
「相続トラブルはドラマの世界の話」では決してない
最高裁判所「司法統計年報」によると、遺産分割事件の数は毎年1万件を超えています。単純に考えて1日27件以上発生している計算です。つまり、今回紹介したような事例も決してドラマの世界だけの出来事ではありません。相続人調査により知らない異母・異父兄弟が見つかるケースは実際に存在し、その多くが深刻な相続トラブルに発展しています。
そして、こうしたトラブルの“泥沼化”を避けるために有効なのが「遺言書」です。
たとえば、相続人が2人の子である場合、法定相続分は、2分の1ずつ均等となっていますが、献身的に介護をしてくれたなどとして片方の子に多くのこしたいと思うこともあるでしょう。
こうした場合、要件を満たしている遺言書であれば法的効力を有するため、原則遺言書どおりの相続が可能です。
また、遺言書には「付言事項」を記すことができます。この付言事項には法的効力はありませんが、生前の感謝の気持ちや自分亡きあとの希望など「想い」をのこすことが可能です。
たとえば前述のように相続人間で不平等な内容にしたい場合、取り分が少ない子(相続人)には不満が生じやすくなります。そんなとき、遺言を作成した経緯を付言事項に記すことで、相続人の不満が解消されることも少なくありません。
また葬儀や納骨の方法についても、遺言書に書いておくことで本人の希望が明確になり、相続人はその意を尊重して進めやすくなります。