“都市脱出”に関心高まるが…地方移住の「光と影」

近年、地方移住への関心が高まっています。国土交通省の調査では、20代の44.8%が地方移住に関心があると回答しており、若年層でも“都市脱出”を考えているようです。

東京都における移住相談件数は2010年代から右肩上がりで増加。2020年はコロナの影響で一時減少したものの、2021年以降は再び増加に向かっています。

出典:国土交通省「参考データ集」(p3)
[図表1]相談・問い合わせ数推移(2008~2022:暦年) 出典:国土交通省「参考データ集」(p3)

この背景には、働く場所にとらわれないライフスタイルが広がったことも大きく関係しているでしょう。実際、希望する就労形態として「テレワーク」を望む人が増加。「通勤の負担を減らしたい」「都市部特有のストレスから解放されたい」といったニーズが反映されていると考えられます。

出典:国土交通省「参考データ集」(p3) 
[図表2]希望する就労形態〔複数回答〕(2017~2022:暦年) 出典:国土交通省「参考データ集」(p3) 

もっとも、地方移住がすべて成功するわけではありません。なかには、地域になじめず孤独やこれまでの生活とのギャップに悩む人もいます。

たとえば「こだて賃貸コラム」の調査では、移住後に「孤独感や生活習慣に慣れない」と答えた人は30代で13.8%、40代で14.3%にのぼります。地域とのつながりが希薄なまま移住すると、かえって不安を抱えることにもなりかねません。

このように、地方移住には理想と現実の両面があることに注意が必要です。

息苦しい都心での生活に疲れたサラリーマン

水上武司さん(仮名・65歳)は、妻の愛子さん(仮名・65歳)と都内で2人暮らしをしています。

会社員時代の武司さんは、満員電車に揺られて早足で目的地へ急ぐ毎日。そんな日々に疑問を抱く暇もなく忙しい日々を過ごしていたそうです。しかし、定年が近づいた武司さんは次第に「なぜこんなにも息苦しい世界で暮らさなければいけないんだろう」と考えるようになりました。

定年を迎えた武司さんの資産状況は、退職金2,500万円を含めて約3,300万円の貯金があり、自宅のローンは完済しています。老後資金の不安はほとんどありません。

そんな武司さんが心を奪われたのが「地方移住」という新たな暮らし方でした。