さまざまな理由で地方移住を検討している人は増えています。とはいえ地方移住のリスクは決して低くなく、きちんとした下準備ができていなければ後悔する可能性が高まります。定年後に静岡へ移住した65歳・水上夫婦(仮名)の事例をもとに、地方移住の実態と失敗しないためのポイントをみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。
東京よ、さらば…〈年金月23万円〉〈退職金2,000万円〉65歳夫婦が念願の「静岡移住」を断行→1年後、新たな実家に立ち寄った33歳長男“まさかの光景”に絶句【CFPの助言】
東京よ、さらば…静岡への移住を決断した水上夫婦
それからというもの、武司さんは移住に関する情報収集が日課となり、候補地の雰囲気や医療環境、買い物の利便性などを隅々まで調べあげました。気づいたら日が暮れていたことも一度や二度ではありません。
最初は半分冗談のつもりで聞き流していた妻の愛子さんも、毎晩のように熱心に移住について語る武司さんの姿に、しだいに前向きな気持ちに変わっていきました。
「静岡ってどうかしら? 気候もいいし、新幹線ですぐ東京にも行けるし」
2人で話し合いを重ねた結果、最終的に移住先に選んだのは愛子さんが提案した静岡県です。
都内にある自宅マンションは3,000万円で売却し、そのうち1,500万円で中古の一戸建てを購入。残りの1,500万円は生活資金の予備として確保することにしました。
すべての準備が整ったある日。2人は荷物をまとめ、静岡行きの新幹線に乗り込みます。
「東京よ、さらば……」
武司さんは車窓から見えるビル群に、そっと心のなかで別れを告げました。
目覚ましは日光と鳥のさえずり…移住先で始まった「穏やかな暮らし」
静岡での暮らしは、穏やかに幕を開けました。アラームに急かされることもなく、朝は窓から差し込む太陽の光と、遠くに聞こえる鳥のさえずりで目を覚まします。
やがて2人は、近所の畑で季節の野菜を育てることに。休日には地元のワイナリーや温泉地を巡り、都会では味わえなかった余白のある暮らしを存分に満喫。
生活費は月26万円ほどで、夫婦の年金で月23万円を賄えたため、足りない分は無理のない範囲で貯金から補いながら、心に余裕をもった日々を送っています。
元気かな…両親を心配して移住先を訪ねた息子
そんなある日、移住後の暮らしを心配していた息子が、1年ぶりに両親のもとを訪れました。現在33歳の彼は大学を卒業後、都内でひとり暮らしをしています。
途中道に迷いながらも、なんとか静岡の“新しい実家”にたどり着きました。
「父さんと母さん、元気かな……。えっ? 本当にここであってる?」
息子が実家を訪ねると、そこには思いがけない光景が広がっていたのです。