東京よ、さらば…静岡への移住を決断した水上夫婦

それからというもの、武司さんは移住に関する情報収集が日課となり、候補地の雰囲気や医療環境、買い物の利便性などを隅々まで調べあげました。気づいたら日が暮れていたことも一度や二度ではありません。

最初は半分冗談のつもりで聞き流していた妻の愛子さんも、毎晩のように熱心に移住について語る武司さんの姿に、しだいに前向きな気持ちに変わっていきました。

「静岡ってどうかしら? 気候もいいし、新幹線ですぐ東京にも行けるし」

2人で話し合いを重ねた結果、最終的に移住先に選んだのは愛子さんが提案した静岡県です。

都内にある自宅マンションは3,000万円で売却し、そのうち1,500万円で中古の一戸建てを購入。残りの1,500万円は生活資金の予備として確保することにしました。

すべての準備が整ったある日。2人は荷物をまとめ、静岡行きの新幹線に乗り込みます。

「東京よ、さらば……」

武司さんは車窓から見えるビル群に、そっと心のなかで別れを告げました。

目覚ましは日光と鳥のさえずり…移住先で始まった「穏やかな暮らし」

静岡での暮らしは、穏やかに幕を開けました。アラームに急かされることもなく、朝は窓から差し込む太陽の光と、遠くに聞こえる鳥のさえずりで目を覚まします。

やがて2人は、近所の畑で季節の野菜を育てることに。休日には地元のワイナリーや温泉地を巡り、都会では味わえなかった余白のある暮らしを存分に満喫。

生活費は月26万円ほどで、夫婦の年金で月23万円を賄えたため、足りない分は無理のない範囲で貯金から補いながら、心に余裕をもった日々を送っています。

元気かな…両親を心配して移住先を訪ねた息子

そんなある日、移住後の暮らしを心配していた息子が、1年ぶりに両親のもとを訪れました。現在33歳の彼は大学を卒業後、都内でひとり暮らしをしています。

途中道に迷いながらも、なんとか静岡の“新しい実家”にたどり着きました。

「父さんと母さん、元気かな……。えっ? 本当にここであってる?」

息子が実家を訪ねると、そこには思いがけない光景が広がっていたのです。