姉は傷つき、弟は後悔…姉弟の「その後」

結局、姉弟は家庭裁判所で争った末、法定相続分に従って遺産が分けられることとなりました。

法定相続分を受け取り「当然の結果だ」と満足気な登紀子さんでしたが、数年後、SNSを見て衝撃を受けました。そこには、花嫁姿の姪(敦史さんの娘)と、嬉し涙で顔がぐしゃぐしゃになっている敦史さんが、母の遺影を持って写っていたのです。後ろには、親戚一同もいるようでした。

可愛がっていた姪の結婚式に自分だけ呼ばれていなかったことを知り、登紀子さんは深く傷つきました。

「そこまで嫌われてしまっていたなんて……」

しかし、後悔していたのは敦史さんも同じです。

結婚式のあと、娘がつぶやいた

「やっぱり、伯母さんにも花嫁姿を見てもらいたかったな……」

という言葉がずっと耳に残っていた敦史さん。

――遺産にこだわらなければ……母が元気なうちに家族でもっと話していれば……。この傷は一生消えません。

円満相続のためにできること

相続トラブルによって壊れた関係を元に戻すことは非常に困難です。人は年齢を重ねるほど、心を許せる人、頼れる人が少なくなっていきます。喜びも悲しみも苦しみも分かち合える家族を、遺産トラブルをきっかけに失ってしまうことほど、つらく虚しいことはありません。

相続において、遺言書は極めて重要です。しかし、「親が遺言書さえ残していれば」と結論づけると、本質を見落としてしまう危険性があります。円満な相続を実現するには、親任せにするのではなく、ともに考えながら準備を手伝う過程が不可欠です。

老いた親に突然「遺言書を書いてほしい」と求めるのは、真意が伝わらず逆効果となるかもしれません。

相続の話題は切り出しにくいテーマですが、日頃から家族間のコミュニケーションがあれば、遺言書作成の提案も自然な形で進めやすくなります。

現在向き合える時間が、家族全員の未来を守る力に繋がります。それぞれの立場でできることから始めてみましょう。

山原 美起子
株式会社FAMORE
ファイナンシャル・プランナー(CFP/1級ファイナンシャル・プランニング技能士)