許さん…まさかの「音信不通」にブチ切れ

翌朝、小山さんは金子さんにメッセージを送りました。

「昨日はありがとう! 久しぶりにたくさん話せて嬉しかった。週末、よかったら少し遠出しない? お腹の子にもいい空気を吸わせてあげたくて……」

昨日の違和感を断ち切ろうと気丈に振る舞いつつ、さりげなく愛情を込めた内容を送信するも、返事はありません。

翌日も連絡をしましたが、既読すらつかず、電話も応答なし。数日経っても折り返しはなく、小山さんの不安はしだいに確信へと変わります。

「まさか……トんだ?」

認めたくありませんでしたが、現実を受け入れざるを得ません。

「一緒に住むとき、落ち着いたら結婚しようねって言ったじゃない。結婚したら子ども欲しいね、って話したじゃない……!」

怒りと悔しさがこみ上げ、小山さんは心のなかで叫びます。

「許さん……!」

愛情が憎しみに変わり、小山さんは燃え上がる復讐心をどう扱えばいいのかわからずにいました。

常連客がつないでくれた出会い

金子さんが音信不通になったあとも、小山さんは休むことなく働き続けていました。お腹には新しい命が宿っていますが、生活のためには稼がなければいけません。

けれど、以前のような笑顔はもう努力してもつくることができませんでした。接客もどこか上の空で、グラスを磨く手にも力が入りません。

そんな変化に気づいたのが、いつもカウンターに座る常連の男性です。

「……なんか元気ないね。どした? 話聞こうか?」

そのひと言に、小山さんは涙をこらえるのが精一杯でした。

「実は……彼に妊娠を伝えたら、それきり連絡が取れなくなって。これからたった1人で子どもを育てることになるかもしれないんです。彼への怒りや悲しみもありますが、経済的な不安が大きくて……」

常連客は少し考えたあと、「自分は力になれないが」と、知り合いのFPを紹介。

後日、小山さんはそのFPのもとへ相談に向かいました。一連の経緯を聞いたFPは、深く頷きながら、次のように言いました。

「小山さんのお気持ち、よくわかります。恨む気持ちも当然でしょう。でも、お腹の赤ちゃんを守るためにも、これからの生活をどうしていくか、しっかり考えていくことが大切です。未婚の母として生きるのは、決して楽ではありません。一緒に現実的なプランを立てていきましょう」

その言葉に、小山さんはようやく、自分が1人ではないことに気づかされました。