(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、金(GOLD)価格の上昇基調が明らかに強まっています。2025年4月には1オンス(31.1g)あたり約3,400ドルと史上最高値を更新しており、これは2022年末から見て約71%もの値上がりです。では、いったいなぜこんなにも金に資金が集まっているのか、今後の金価格はどうなっていくのか、アールトラスト・インベスターズ株式会社代表取締役の小川竜一氏が解説します。

“トランプ政策”への警戒感で揺らぐ「米国株一強時代」

米国株式市場は長年にわたり世界中の投資マネーを引きつけ、「米国株一強」ともいえる地位を築いてきました。

 

とりわけ欧州の投資家は運用資金の多くを米国株に振り向け、その残高は近年急拡大してきた事実があります。

 

米財務省の統計によれば、米国外居住の投資家による米国株の保有額は2025年2月時点で約18兆ドルにのぼり、その半分にあたる約9兆ドルを欧州勢が占めます。この額は直近5年間で倍増しており、欧州マネーが米国株式市場を押し上げる重要な原動力となってきたのです。

 

ところがいま、その流れが大きく変わり始めています。米国株式市場を支えてきた巨額の海外マネーが、本国である欧州へと回帰しつつあるのです。

 

背景には、2025年のトランプ米政権誕生に伴う保護主義的な政策への警戒感と、世界的な経済安全保障(エコノミック・セキュリティ)意識の高まりがあります。実際、多くの欧州投資家が「米国依存からの脱却」を掲げ、自らの資産配分を見直し始めました。

 

さらに各国政府・中央銀行は競うように金(GOLD)を買い増しており、世界規模で“ゴールド争奪戦”ともいうべき現象も進行しています。

 

本記事では、この「米国株一強時代」の揺らぎと各国の動向を整理し、個人投資家として今後どのように対応すべきか—とりわけ資産の一部を金に振り向ける意義について考えてみます。

 

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米国株式市場を支えてきた資金の逆流

まず押さえておきたいのは、米国株式市場から資金が逆流し始めている現実です。

 

欧州の投資家はここ数年、自国の低調な経済や米国のテック株好調を背景に、運用資金を積極的に米国へ投じてきました。

 

事実、欧州株のリターンが米国株に劣後する状況が続いたため(たとえばAIブームを牽引するエヌビディアなど成長企業が米国に集中していたことも一因)、欧州マネーはより高い成長を求めてアメリカ市場に流入していたのです。

 

しかし2025年春以降、この潮流に変化の兆しがみえています。

 

4月初旬、トランプ米大統領が相互関税措置の詳細を公表すると、それを機に欧州の機関投資家たちは本格的に運用戦略の再考に乗り出しました。資産運用大手の独DWSは欧州株に対する投資評価を「ニュートラル(中立)」から「オーバーウエート(強気)」へと引き上げ、欧州市場への資金シフトに動き始めています。

 

DWSのCIOであるヴィンチェンツォ・ヴェッダ氏は、この「マネーの逆回転」は当面続くだろうとの見方を示しており、市場データもその動きを裏づけています。

 

調査会社EPFRによれば、2025年4月下旬までの2週間で米国株ファンドからは約65億ドルが流出し、一方で欧州株ファンドには同期間に約93億ドルが流入しました。巨額の欧州マネーが米国市場から資金を引き揚げ、地元欧州に呼び戻しつつあるのです。

 

欧州勢のこの方向転換は、米国株式市場にとって無視できないインパクトを持ちます。

 

かつて「湯水のごとく」米国に注ぎ込まれていた資金が細り始めれば、米国株の需給構造や評価にも影響がおよぶでしょう。

 

では、なぜ欧州の投資家たちはここにきて方針を転換し始めたのでしょうか。その背景には、世界の政治・経済環境の変化が横たわっています。

保護主義が揺るがす「米国株一強」の基盤

欧州マネーが「米国株一強」の前提を揺さぶるに至った背後には、主に次のような要因があります。

 

1.米国の保護主義強化による貿易摩擦リスク

2025年に発足したトランプ政権は、就任早々にEUなど各国との相互関税措置を打ち出し、通商政策で強硬姿勢を示しました。関税の応酬による貿易戦争が現実味を帯びれば、企業業績や景気の悪化に直結しかねません。こうした状況に欧州の投資家は敏感に反応し、米国偏重のリスクを意識し始めました。

 

2.米国の経済政策の不透明感

トランプ政権下では先行きの読めない政策運営が懸念されています。減税・金融緩和から一転して関税引き上げや自国第一主義への傾斜など、予測困難な方針転換が相次ぐ可能性があります。

 

仏アムンディのグループCIOヴァンサン・モルティエ氏も「経済政策の予測が難しい状態では、米国資産をオーバーウエート(強気)のままにできない」と指摘しています。政策の不確実性は投資判断を鈍らせ、米国市場から資金を遠ざける要因となりえます。

 

3. 為替変動によるリターン悪化リスク

米欧の対立や景気見通しの差異からドル安・欧州通貨高が進行すると、為替ヘッジをしていない投資家にとって米国資産の運用成績は目減りします。欧州投資家が自国通貨建てで見た場合、ドル建て米国株の下落や為替損失がリターンを大きく削る可能性があります。

 

米国市場での利益を為替で失うリスクは、欧州マネーにとって看過できない懸念材料です。

 

4. 地政学的緊張と同盟関係の揺らぎ

トランプ政権はNATOにおける欧州側の防衛費負担の不足や、貿易上の不均衡に強い不満を示し、欧米同盟の亀裂も辞さない姿勢を取っています。

 

実際、米国が欧州との長年の同盟関係を軽視し始めたことは世界秩序を動揺させ、欧州各国に「自分たちの身は自分たちで守る」という危機感を抱かせました。安全保障面での緊張は市場に不安心理をもたらし、米国への過度の依存を見直す動機となります。

 

 

以上のように、米国発の関税政策・経済運営の不確実性・同盟関係の変容といった要因が重なり、欧州の投資マネーは「このまま米国偏重でいていいのか」という根源的な疑問に直面しました。

 

こうした環境の変化は、欧州だけでなく世界中の投資家に共通する懸念でもあります。事実、米国市場への過度な資金集中はリスクだと認識され始め、「米国株至上主義」の土台が揺らぎつつあるのです。

 

この動きは、欧州の投資テーマそのものを転換させました。

 

キーワードは「米国依存からの脱却」です。

 

安全保障や経済基盤を自前で強化し、自国(あるいは地域)の成長機会に資金を振り向ける流れが生まれているのです。

 

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欧州「脱アメリカ依存」:防衛とテックへのシフト

欧州ではいま、「米国に依存しない体制の構築」が急務となりつつあります。

 

具体的には、防衛力強化と産業競争力の底上げという2つの軸で、自立への動きが進んでいる状況です。

 

1.防衛力強化

まず防衛面では、各国が軍事予算を大幅に積み増す方針を打ち出しました。

 

たとえばドイツでは、2025年5月に発足したメルツ連立政権が国防費などに約1兆ユーロ(約162兆円)を投じる見通しです。EU全体としても、2025年3月に「再軍備」計画を正式に表明し、欧州の安全保障体制を強化する決意を示しました。

 

ウクライナ情勢や米国の同盟姿勢の変化を受け、欧州は自前で防衛力を高める方向に舵を切ったのです。

 

こうした防衛支出拡大の見通しをにらみ、投資マネーも素早く反応しています。

 

戦車や弾薬の製造を手がけるドイツのラインメタル社の株価は2024年末比で2.2倍に急騰。また戦闘機開発のスウェーデン企業サーブの株価も同8割高(+80%)と大幅に上昇しました。

 

いずれも米国の同業他社を上回る上昇率で、欧州防衛産業への期待の高まりを物語っています。市場は「欧州が自ら防衛力を強化する」という新たな現実を織り込み始めているのです。

 

2. 産業競争力の底上げ

次に産業競争力の強化、特にテクノロジー分野での巻き返しも重要な柱です。

 

欧州はこれまでAIやソフトウェアなど先端テック領域で米国に後れを取ってきたとの強い危機感があり、官民挙げて対策を講じ始めました。欧州中央銀行(ECB)のドラギ前総裁は2024年9月、AI活用など欧州産業の競争力強化策を提言する「ドラギリポート」を公表し、欧州域内テック企業支援の青写真が示されています。

 

また、民間主導で米国製ソフトウェアへの依存度を減らす「ユーロスタック」構想も台頭し、2025年3月には欧州の100以上の企業・団体が共同でEUに対しこの動きの推進を求める書簡を提出しました。

 

これらはいずれも「デジタル分野で米国に頼らない」ための土台作りといえます。

 

欧州当局のこうした産業支援策への期待感から、欧州の代表的テック企業にも投資資金が向かい始めています。

 

ドイツのソフトウェア大手SAPの株価は2024年末比で約5%上昇し、対照的に米国ではマイクロソフトが7%安、エヌビディアが19%安と下落するなかで健闘しています。米国のハイテク株が調整局面に入る一方で、欧州企業が見直されている状況といえるでしょう。

 

 

このように防衛とテクノロジーの両面で「米国からの自立」を目指す欧州は、投資先としての魅力を増しつつあります。

 

もっとも、欧州経済自体はまだ回復途上にあり、関税摩擦による景気下振れリスクや各国間の足並みの乱れなど課題も残ります。それでも、欧州は歴史的な危機を契機として統合を深化させてきた経緯があります。もし各国の本気度が投資家に伝われば、欧州へのマネー回帰は一過性でなく息の長いトレンドになる可能性があります。

 

現に、米国株式市場に積み上がった「9兆ドルの山」(欧州勢が保有する米国株)の行方は、欧州株式相場のみならず欧州経済全体の競争力をも左右するとの指摘もあります。

 

欧州の自立に賭ける資金循環は、米国一強の構図に地殻変動を起こしつつあるのです。

世界で進む「ゴールド」争奪戦

欧州マネーの動向と並行して、もうひとつ見逃せない世界的潮流があります。それは各国による「ゴールドの争奪戦」ともいうべき動きです。

 

昨今、各国の政府・中央銀行が国家予算や外貨準備を背景に金の保有量を競うように増やしています。

 

たとえば2022年に勃発したロシアのウクライナ侵攻以降、各国中央銀行が購入した金の量は年平均1,000トンを超えています。これはそれ以前の10年間平均と比べて約2倍にもなる水準です。

 

さらに2024年末、トランプ氏が米大統領選に勝利した直後にはその動きが一段と加速し、同年第4四半期の中央銀行による金購入量は前年同期比54%増の333トンに達しました。

 

まさに国家レベルで「ゴールドラッシュ」が起きているのです。

 

中央銀行は通常、金価格が下落した局面で買い増し、価格上昇時には購入を控える傾向があります。しかし足元では、金相場が過去最高水準にあるにもかかわらず各国は買い姿勢を崩していません。

 

金価格の上昇が続いても購入を先送りしないほど、各国の「金需要」は切実だといえます。

 

実際、2025年に入り公表されたデータでは、1~2月のわずか2ヵ月間で世界の中央銀行が純ベースで44トンもの金を積み増しており、なかでもポーランドや中国が大口の買い手となっています。

 

ある市場関係者は「金準備の少ない新興国の中央銀行ほど積極的に買い増すだろう。今年の中央銀行の金需要は数十年で最高水準になるかもしれない」と指摘しています。

 

もはや各国は多少金価格が高かろうと関係なく、「持てるときに持っておく」姿勢を鮮明にしているのです。

 

この世界的な金購入ラッシュの背景には、各国の経済安全保障戦略があります。

 

基軸通貨であるドルへの過度な依存を減らし、自国の資産を守ろうという動きです。米国の経済政策に不透明感が増すなか、各国中央銀行にとってはドル建て資産(米国債など)を積み増すインセンティブが薄れ、代わりに価値保全手段として金を選好する傾向が強まっています。

 

トランプ政権の関税政策や同盟軽視によって世界秩序が動揺したことも、安全資産である金の保有拡大に拍車をかけているでしょう。さらに、関税による物価上昇(インフレ)圧力への懸念や、自国通貨の価値下落リスクに備える目的もあります。金はどの国にとっても「他国の信用リスクに左右されない」数少ない資産であり、まさに非常時の備えとして適しているのです。

 

このように、各国が競って金を買い増す状況は、ある意味“国家ぐるみのゴールド争奪戦”といえるかもしれません。

 

各国政府・中央銀行が揃って安全保障の観点から金を蓄えている以上、個人レベルでも資産防衛策として金に注目することは自然な流れといえるでしょう。金は国家にとって有事の備えであると同時に、私たち個人にとっても不測の事態に備える「資産の保険」になり得ます。

 

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株式依存の危うさ

ここまで見てきた世界の潮流は、私たち個人投資家に重要な示唆を与えています。

 

第一に考えさせられるのは、株式だけに頼った資産運用のリスクです。特に米国株中心に集中投資し「これまで米国株で勝ってきたから大丈夫」と自信を深めてきた方ほど、その前提条件がいま揺らぎ始めているのではないでしょうか。

 

特に2024年にリニューアルしたNISAを活用し、「S&P500やオルカンを中心にドルコスト平均法で投資しているから大丈夫!」という投資初心者の方は特に危険かもしれません。

 

グローバルな巨額マネーが米国市場から引き始めた以上、かつてのような「世界中の資金が米国株を押し上げてくれる」という安心神話は弱まりつつあります。

 

実際、2020年代前半の米国株式市場はハイテク株ブームの追い風もあって力強い上昇を続けてきました。

 

しかし、その主役であった巨大ハイテク企業群も、近年は金利上昇による株価調整や各国での規制強化、そして今回のような地政学リスクの高まりに直面し、株価が大きく変動しています。たとえば米マイクロソフトやエヌビディアの株価が調整する一方で、ドイツのSAPが堅調に推移する場面も見られました。

 

「米国株さえ持っていれば万全」という図式は、もはや当たり前ではないのです。

 

さらに、米国と欧州の関係悪化は単なる投資パフォーマンスの問題にとどまらず、企業活動そのものにも影響します。

 

関税合戦が激化すれば、米国株の主役である多国籍ハイテク企業もサプライチェーンの寸断といった打撃を被る恐れがあります。そうなればこれまで想定されていなかったリスク要因が顕在化し、株式市場を動揺させるでしょう。

 

中央銀行ですら、外貨準備の一部を米ドル資産から金へと移す時代です。

 

極端なたとえをすれば、各国政府・中央銀行が仮に米国株式の保有比率を引き下げるような事態になれば、株式市場を支えてきた構造そのものが変容しかねません。個人投資家がそこまで悲観的になる必要はありませんが、少なくとも「株式さえ持っていれば安心」という考えは再検討したほうが良い段階に来ているといえるでしょう。

 

ここで強調したいのは、決して株式投資自体を否定すべきではないということです。

 

むしろ長期的な資産形成の柱として、成長企業への投資はこれからも重要であり続けます。ただ、その前提となる環境が不変でない以上、環境変化に応じて戦略を見直す柔軟さが求められているのです。

投資アプローチは多様だが…金の輝きは無視できない

最適な資産配分は本来、投資家1人ひとりの状況や信条によって異なります。

 

年齢、資産規模、リスク許容度、将来展望などによって重視すべき投資対象は変わってくるでしょう。場合によっては、米国株中心の戦略を維持することが依然として合理的な選択となる投資家もいるはずです。

 

一方で、世界の大きな潮流が転換点を迎えつつある今、自身のポートフォリオを点検し、多様性(ダイバーシティ)を持たせることの意義はこれまで以上に高まっています。

 

株式・債券・不動産・コモディティ・暗号資産など選択肢はさまざまですが、そのなかでも数千年にわたり価値の保存手段として信頼されてきた「金(GOLD)」は改めて注目に値する存在です。

 

実際、金価格は近年上昇基調を強めており、2025年4月には1オンス(31.1g)あたり約3,400ドルと史上最高値を更新しました。これは2022年末から見て約71%もの値上がりで、金が改めて「有事の資産」としての存在感を示していることを意味します。

 

金がこれほど評価されるのは、その希少性に加え信用リスクを伴わない資産だからです。

 

他の金融資産のように発行体(企業や政府)の信用に依存せず、インフレ局面でも価値がゼロになる心配がありません。株式や通貨価値が揺らぐ場面でも、金は実物資産として不変の価値基盤を提供してくれると期待されています。

 

さらに、前述のように各国の中央銀行が積極的に金を買い増している事実は、金の価値を裏づける強力なサインといえるでしょう。

 

いわば「世界のお墨付き」が与えられている資産なのです。

 

投資の世界には「卵を1つの籠に盛るな」(リスク分散のすすめ)という格言がありますが、現代の地政学リスクや経済の不確実性を踏まえると、金というもう1つの籠を持っておくことは賢明な備えかもしれません。

 

最終的な資産配分の判断は各自の責任と裁量に委ねられます。しかし、少なくとも今という時代において金の持つ強さと意義を改めて考えてみる価値は大いにあると私は感じています。

 

もしまだポートフォリオに金(GOLD)を組み入れていないのであれば、この機会に一度検討してみてはいかがでしょうか。

 

米国株一強に陰りが見え始めたいま、輝きを増す「金(GOLD)」がきっと心強い味方となってくれるはずです。

 

 

 

小川 竜一

コインパレス 公式アンバサダー

アールトラスト・インベスターズ株式会社 代表取締役
 

【参考】
Preliminary Report on Foreign Holdings of U.S. Securities at End-June 2023
(https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy2140)