安定した職業と十分な退職金があっても、計画を誤れば老後破綻は誰にでも起こり得ます。それは、安定した職業として広く認識されている立場であっても例外ではありません。今回は、元公務員の66歳男性の事例をもとに、“思わぬ老後破産危機”を防ぐための対策についてみていきましょう。
こんな親父ですまん…年金月30万円・定年退職金2,500万円の66歳元公務員男性が「まさかの老後破産危機」新婚の30歳長男に借金をねだったワケ【FPが警告】
はじめは順調だったが…Aさんに訪れた“Xデー”
Aさんは、友人が勧めていた半導体銘柄を信用取引で1,000株購入。現物取引の場合、退職金のほとんどを使い果たすほどの投資ですが、実質の負担は約3分の1でした。
最初は非常に順調でした。レバレッジのおかげで含み益も大きくなり、「こりゃあ現物取引よりもよっぽど効率的だな。億り人も夢じゃないぞ」と、Aさんは浮かれていました。
しかし2024年7月、市場の風向きが変わります。
アメリカが中国に対して半導体規制の強化を検討しているという報道や、再び存在感を増すようになったトランプ前大統領(当時)の対中強硬路線を明確にしたインタビューなどを受け、地政学リスクへの警戒が急速に高まり、世界的に半導体関連株が大幅下落となったのです。
一時は右肩上がりに見えた株価もたった数日で20%近く下落。Aさんが保有していた銘柄も例外ではありませんでした。
「一時的な調整だろう」と様子を見ていたAさんでしたが、下落は止まる気配がありません。ついに、証券会社から「追証」の連絡が入ってしまいました。
「追証」とは?
追証とは、「追加保証金」の略称です。信用取引は、委託保証金として信用取引する額(約定代金)の30%以上を証券会社に担保として差し入れることによって、約3倍の規模で取引することができます。
ただしこの委託保証金率は、株価が下落しても維持する必要があり、保有銘柄の価値が一定額を下回ると、追加で保証金を入れなければなりません。
「追加保証金が不足しています」との通知に、初めてAさんは信用取引の本当の怖さを思い知りました。現物取引であればゼロになるだけですが、信用取引だとそうはいかないのです。
「信用取引」の恐ろしすぎる“落とし穴”
信用取引とは「自分の持っているお金以上の取引ができる仕組み」のことです。
たとえば、手元に100万円を持っているとして、現物取引では、100万円分の株しか購入することができません。しかし、信用取引ではその100万円を担保に、最大約300万円分の株を購入することができます。
つまり、証券会社からお金や株を「借りて」取引をするというイメージです。これは「レバレッジ(てこの原理)」とも呼ばれ、うまくいけば利益も3倍になります。
しかし、株価が自分の予想と反対に動いたときは損失がどんどん膨らんでしまい、損失も3倍になる可能性があるのです。