由美子さんの「悲しみに暮れる日々」を変えた1本の電話

遡ること半年前。夫を亡くしたばかりの由美子さんは悲しみから抜け出せず、抜け殻のような生活を送っていました。家事も手につかず、部屋の片づけもままならないまま、時間だけが過ぎていきます。

そんなとき、家の固定電話が鳴りました。

「もしもし? こちらは“年金生活者の生活実態調査”を行っておりますX総研です。数分だけご協力いただけますか?」

人との会話自体が久々だった由美子さんは思わず「数分だけなら……」と応じることに。生活費のやりくりや老後の不安を口にするうちに、相手の穏やかな声に心を許していきます。

すると数日後、再びX総研から連絡がありました。

「友坂さま、先日はありがとうございました。先日ご協力いただいたお礼に謝礼をお渡ししたいのですが、もしよろしければ直接お話させていただくことは可能ですか?」

謝礼という言葉につられた由美子さんが指定された近所の喫茶店に向かうと、担当者は思いのほかハンサムで穏やかな印象でした。世間話をかわしたあとで、担当者は次のように言いました。

「実はいま、調査にご協力いただいた方のなかでも数人限定で、新興国のインフラ整備に使われる元本保証付きの債券ファンドをご案内しているんですよ。無理なく始められるよう毎月積み立て形式で、しかも元本は保証されているので絶対に損しない仕組みです」

新興国? インフラ……? 聞き慣れない言葉に由美子さんがポカンとした顔で聞いていると、担当者は微笑んでこう続けました。

「投資総額の1.5倍になる見込みで、半年から1年で配当がでます。たとえば月に30万円、半年間で180万円の投資で270万円が戻ってくる計算です。友坂さまのような方にこそ、知っていただきたいんです。伴侶を亡くされて、生活が苦しいのではないですか? 毎月30万円を私に預けてくだされば、あとは勝手にお金が育ちます。友坂さまのお力になりたいんです。私を信じてください」

「なんだかよくわからないけど、生活が少しでも楽になるなら……」

こうして、由美子さんは担当者の言葉を信じ、わずかな貯金から毎月30万円ずつ送金を続けました。

しかし、半年が経過しても約束された配当は振り込まれませんでした。不安に思った由美子さんが担当者に電話をかけるも、一向につながりません。

そして薄々は気づいていたものの警察に相談した結果、X総研は実在せず、投資詐欺であることが判明しました。