月に1度、地元の居酒屋へ…慎ましくも幸せだった69歳夫婦の暮らし

三木健太さん(仮名・69歳)は現在、同い年の妻・麻美さんと2人で暮らしています。長男と次男はそれぞれ家庭を持っており、年に数回は孫を連れて実家に帰ってきてくれます。夫婦にとってはそれがなによりの楽しみです。

健太さんは現役時代、営業マンとして地元の食品卸会社に30年以上勤め上げました。40歳のときに念願のマイホームを購入し、この家を“終の棲家”とするつもりです。

ただひとつ気がかりなのは、住宅ローンが75歳完済で、現在も約650万円の残債が残っていること。毎月の返済額は約13万円にのぼり、年金からの支出としては決して軽くありません。

もっとも、夫婦は合わせて月25万円の年金収入があり、一般的な高齢者世帯よりやや多い金額です。また、退職時には700万円の退職金も受け取りました。

「年金も多めに出るし、老後はなんとかなるだろう」

こうした楽観的な気持ちもあり、退職後は息子たちの結婚祝いにまとまった金額を包み、車を買い替え、さらに台所や浴室のリフォームも実施。気がつけば、700万円あった退職金は200万円ほどになっていました。

毎月の支出は約24万円と、贅沢はできないものの赤字ではなく、特に不満は感じていませんでした。

1日の始まりはパンとコーヒー、昼は残り物、夜は手作りのおかずとお惣菜を組み合わせた献立。麻美さんの料理は素朴ながら美味しく、健太さんは妻の料理なら好き嫌いはありません。

外食はめったにしませんが、月に1度は、駅前の小さな居酒屋へ出かけます。健太さんは熱燗、麻美さんは梅酒をゆっくり味わい、「この日があるからまた頑張れるね」と微笑み合う、ささやかな幸せがそこにありました。

「あと6年でローンも終わるし、温泉旅行くらい行けるかな」

月13万円の返済は重いものの、完済後の希望が夫婦の支え。この穏やかな暮らしが、この先も変わらず続くと信じて疑うことはありませんでした。

しかし……。