通常65歳から受給開始となる年金は、「繰下げ受給」によって66歳~75歳のあいだで受給開始を繰下げれば、増額した年金を受け取ることができます。しかし、繰下げ受給を行う際に「準備」を怠ると、かえって老後破産危機に陥る可能性が高まると、牧野FP事務所の牧野寿和CFPはいいます。70歳夫婦の事例をもとに、繰下げ受給の“落とし穴”と老後に向けた資産形成のポイントについてみていきましょう。
年金は繰り下げちゃだめだ…年金「月30万円」を夢見た70歳夫婦、定年退職金1,500万円、貯金2,500万円でも老後破産寸前で「悔し涙」のワケ【CFPの助言】
順調にスタートした老後生活だったが…
計画どおり60歳から貯蓄を取り崩しながら生活を始めたA夫婦に“思わぬサプライズ”がありました。それは、妻のBさんが月2万円、Aさんが62歳から65歳まで夫婦で月8万円の「特別支給の老齢厚生年金」の受給が始まったのです。この年金は繰下げができないため、2人にとっては思わぬ収入源です。
これもあって、65歳時点での夫婦の貯蓄残高は、予定より300万円以上多い2,500万円台になりました。計画した以上に順調な老後に、夫婦は思わずニンマリ。
「増えた年金がもらえるまであと5年か……これは余裕だな」
このままいけば悠々自適な老後が待っている……はずでした。
愛娘からのひと言で“完璧な計画”が崩壊
A夫婦は28歳のときに結婚しましたが、なかなか子どもに恵まれず、苦しい思いをしてきました。そのため、5年経ってようやく誕生したCさんのことを、2人は大事に育ててきました。
「頼む、行かないでくれ……もうちょっとこの家にいてくれないか?」
Cさんの就職時には、思わず泣いて引き留めたほどです。そんな愛娘から、久しぶりに連絡がありました。A夫婦が68歳、Cさんが35歳のときのことです。
「あのね、結婚したい人がいるの」
週末、Cさんは2歳年上の婚約者を連れて、自宅にあいさつに来ました。愛娘の結婚に複雑な胸中のAさんでしたが拒む理由はありません。
「挙式と披露宴は、パパとママと親しい友人だけでやりたいと思ってるの。お金は自分たちでなんとかするし、心配いらないよ」
こう話す娘に、Aさんは言いました。
「なにを言ってるんだ。せっかくCが結婚するんだぞ。パパがいくらか出すから、親戚やお世話になった人を呼んで盛大にやりなさい」
こう言った手前、もう引き下がれません。Aさんは結婚資金として、約200万円を援助することになりました。
さらにC夫婦は、Cさんがそれまで住んでいた賃貸マンションにそのまま住む予定でしたが、その後勤務先に近いお値打ちなマンションが見つかり、急きょ住宅を購入することに。これを聞いたAさんは「なにもしないわけにはいかない」と、頭金としてさらに500万円を援助しました。
その後、70歳になったA夫婦は年金の受給を開始。受給額は予定どおり月あたり約30万円ですが、貯蓄残高はわずか22万円です。
退職時に作成した“完璧な計画”は完全に崩壊していました。しかし、意固地になって繰下げを続けた結果「老後破産寸前の大ピンチ」に……自らの計画を悔やむAさんでした。