長寿化が進む日本において、年金繰下げ受給の有効性が注目されています。令和4年4月からは繰下げ上限年齢が70歳から75歳に引き上げられるなど、国としても繰下げを勧めているようです。しかし当然ですがデメリットも考慮する必要があり、安易な繰下げ選択は家計破綻を招きかねません。繰下げ受給を選んで後悔した69歳Aさんの事例をみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。

(※写真はイメージです/PIXTA)
年金繰下げ計画は完璧だったはずだ…貯金2,000万円の65歳“おひとりさま”男性〈70歳で年金月24万円・貯金500万円〉の予定が、定年後4年で「お金がありません」のワケ【CFPの助言】
定年退職した“おひとりさま”男性の資金計画
現在69歳のAさんは、65歳で中小企業の管理職を定年退職しました。誰にも好かれる性格で穏やかな人柄のAさんですが、たまたま良縁がなく独身を貫いています。
定年退職する前、老後のための年金セミナーを受講したAさんは、年金を「繰下げ受給」することでその分増額した年金を受け取れることを知りました。
「長生きしてお金が足りなくなったら目も当てられないからな……繰下げ受給も検討してみるか」
そう考えたAさんは老後の資金計画を練り、年金を5年間繰り下げることにしました。
〈Aさんの資金計画〉
- 現在の生活費は月25万円。退職後もなるべく生活の質を落としたくないため、月25万円のままで生活するプラン。
- 現在の貯蓄は、退職金を含めて約2,000万円。月25万円で生活すれば、貯蓄を1年間で300万円、5年間で1,500万円取り崩しても500万円残る。
- 70歳からの年金受給額が月24万円であれば月々1万円の赤字だが、歳を取れば支出額も減って貯蓄を取り崩さなくとも生活できるはず。
- 70歳で貯蓄が500万円ほど残っていれば、将来の介護費用も賄えるはず。
なお、Aさんは45歳のときに親の援助を受けて戸建を購入しており、住宅ローンはありません。
また、Aさんは62歳から3年間、月13万円の「特別支給の老齢厚生年金」を受給していましたが、これらにはいまだ一切手をつけていません。
「これまで贅沢をしたことはないし、今後も必要以上にお金をつかうことはないだろう。年金を繰り下げれば、増額した年金だけで生活できるはずだ」
このように、Aさんは考えました。
65歳から受給していればAさんの年金額は月17万円ですが、5年繰下げて受給開始を70歳からとし、42%増額した年金を受給することにすれば、約24万円となります。
Aさんはこの年金繰下げ計画について「我ながら実によく練られたものだ」と、ひとり悦に入っていました。
しかし……。