社会保障制度が充実した今、「年をとっても人に頼らず、自立して一人で暮らすべき」と考える高齢者も多いでしょう。家族に迷惑をかけないようにと気を遣うことで、疎遠になることもあります。しかし、それが思わぬ事態につながることも。今回は、松井さん(仮名・81歳)の事例をもとに、高齢者が老後に家族とどのような関係性を築けばよいか、FPの三原由紀氏が解説します。
年金月15万円・81歳母、「1日2食」の生活苦をひた隠し、古びた団地でひとり昏倒…「子どもには迷惑をかけられない」ぽつりと零した言葉に娘、号泣【FPの助言】
老後は「迷惑をかけない」より「助けを求める勇気」を
退院後、綾子さんは麻里さんと話し合いを重ね、「困ったときには遠慮なく頼る」「週に一度の電話と月1回の訪問を欠かさない」ことを約束しました。また、地域包括支援センターに相談し、見守りや食事支援サービスを活用するようになりました。
「頼らないことにこだわりすぎて、かえって迷惑をかけていたかもしれません。いまは“つながっている”と感じられる毎日がうれしいんです」と綾子さんは語ります。
ファイナンシャルプランナーとしても「頼らない」ことがリスクになることをお伝えしたいところです。生活保護や介護サービス、見守り支援など、公的支援は“遠慮なく使うべき制度”です。家族との対話も、老後資金と同じく大切な“資産”なのです。具体的に意識しておきたい4つのポイントを挙げておきます
①定期的な家族との連絡体制の構築
家族と「毎週〇曜日に電話」「月に一度は訪問」など具体的な約束をしておくことで、異変に早く気づくことができます。最近では高齢者向けの見守りアプリなども充実しています。
②地域の見守りネットワークの活用
自治体の見守りサービスや民生委員の訪問を拒まず活用しましょう。また、ご近所との日常的な挨拶や会話も大切な見守りになります。自治体によっては独居高齢者向けの緊急通報システムも無料で利用できる場合があります。
③経済状況の正直な開示
家族に経済状況を隠さず伝えておくことで、必要な支援を適切なタイミングで受けられます。特に医療費や介護費用は想定よりかさむことが多いため、早めの相談が重要です。
④必要に応じた公的支援の活用
生活保護だけでなく、介護保険や高齢者向け給付金、医療費助成など様々な公的支援があります。「自分はまだ大丈夫」と思わず、地域包括支援センターや社会福祉協議会に相談してみましょう。
現在、綾子さんは麻里さんとの定期連絡を続けながら、地域のシニアが集う合唱サロンに参加。年末の第九の発表会が、いまの目標だと笑います。
子どもに負担をかけたくない。その気持ちは尊いものです。しかし、命や生活を犠牲にするほどの我慢は、誰のためにもなりません。老後に本当に必要なのは、「迷惑をかけない努力」ではなく、「支え合って生きる」選択をすることではないでしょうか。
三原 由紀
プレ定年専門FP®