定年後の第二の人生には長年勤務した会社に勤め続けるだけでなく、転職や起業といった選択肢もあります。しかし、よかれと思ったチャレンジが失敗に終わるケースは珍しくありません。場合によっては経済的に苦境に陥るおそれもあるでしょう。ある事情で定年後に自営業を選択した池田さんの事例から、セカンドライフで起業を選択する場合の注意点とリカバリーについて、CFPの松田聡子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
見返してやりたかった…退職金と貯金で老後資産3,000万円の元専務、60歳で実質的な“左遷”の屈辱。「人生最後・逆襲の挑戦」に打って出るも、老後危機に転落の顛末【CFPの助言】
なぜ失敗したのか?食品業界ベテランが陥った「小売業の落とし穴」
池田さんの挫折には、ビジネスモデルの根本的な違いを軽視したことが大きく影響していると考えられます。「食品関係」という同じ括りのなかでも、卸売業と小売業では必要な知識やスキルが大きく異なります。
「私は食品の品質管理や流通の知識は豊富でしたが、一般消費者向けの接客や販促、季節変動への対応などは未経験でした」と池田さん。ジェラート店の経営ノウハウの引継ぎも不十分だったと振り返ります。
それなりに繁盛していた店を引き継いだため、「やればなんとかなるだろう」という甘い見通しで始めてしまったといいます。前オーナーも経営にあまり関わっていなかったので、細かい運営ノウハウや地域特性、常連客の情報などは十分に受け取れませんでした。
人材面でも痛手がありました。店の看板従業員だったベテランスタッフが、オーナー交代と同時に退職してしまったのです。退職したスタッフは常連客と良好な関係を築いており、その存在が店の雰囲気を支えていました。新しいスタッフを雇用しましたが、サービスの質を維持しきれず、常連客離れにつながりました。
そして、最大の盲点が、自身の健康リスクでした。「60代でのハードワークによる身体への負担を甘く見ていました」と池田さん。冷たい食品を扱う環境や長時間の立ち仕事は体力的な負担だけでなく、リウマチ発症の引き金にもなってしまいました。
「収支計画はしっかり立てたつもりでしたが、数字には表れない要素を考慮できていませんでした」と池田さんは悔やみます。ビジネス経験が豊富であっても業態が変われば成功法則も変わるという厳しい現実を、池田さんは身をもって体験することになったのです。