「子どもの将来のために」と、聖域になりがちな教育費。しかし、気づけば自分たちの老後資金は用意できないまま……そんな現実に直面する親世代が少なくありません。本記事では、ひとり息子に多くの教育費を投じた結果、老後資金を十分に準備できなかった吉田さん(仮名)61歳の事例をもとに、教育費と老後資金のバランスについて、CFP®の伊藤寛子氏が解説します。
ここまでする必要があったのだろうか…“自慢の我が子”に惜しみなくつぎ込んだ教育費、「総額3,000万円」。年金暮らしが迫る61歳会社員、老後資金が足りない〈苦しい現実〉を前に自問自答【CFPの助言】
教育費と老後資金を両立させる視点と計画
教育費と老後資金は「人生の三大支出」のうちの2つです(もうひとつは住居費)。どれも必要な支出ですが、教育費は「大切な我が子のため、将来のため」と聖域になりがちです。教育費は数年に渡りかかり続けることから、総額でいくらかけているのかが見えづらく、結果的にかけ過ぎてしまっているご家庭もあります。
そして問題なのは、「教育費」と「老後資金」がどちらも“人生の後半”に重なってくることです。子どもが小さい間はその予兆に気づきにくく、子どもが大学受験を迎える時期から家計が本格的に圧迫され始め、親の退職間近になり一気に顕在化します。
このような事態は、もともと余分なお金が少ない平均的な世帯年収600万円未満の家庭よりも、世帯年収1,000万円程度の家庭の方が陥りやすくなる傾向にあります。「うちは年収1,000万あるから大丈夫」との思い込みで、実際は生活費・住宅ローン・教育費など、支出過多になりがちだからです。
そのため「教育費優先」ではなく、「老後資金も並行して準備」の視点を持ち、長期的な資金計画を立てることが大事です。
教育費のピークを超えてから自分たちの老後資金を貯めようとしても、役職定年や再雇用により年収が低下することで、貯蓄ペースは上げづらくなるため、間に合いません。晩婚化の影響で子どもが独立する年齢から、退職までの期間が限られる方も増えています。
教育資金は、奨学金などで先送りすることができますが、老後資金は基本的に借りることはできません。足りなければ老後破綻に直結し、子どもに頼らざるを得なければ、迷惑をかけてしまいます。
退職金を老後資金の原資に考えていたとしても、住宅ローンの返済やリフォーム費用などに充てることで、意外と心許ない額しか残らない、ということもあり得ます。
老後資金の必要額は大きく、コツコツと時間をかけて貯めていく必要があります。たとえばiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAなど、税制優遇を活用した積み立て投資が有効です。
自分はいくら老後資金を貯める必要があるのかを把握し、生活費、住居費、必要な貯蓄額を確保したうえで、どこまで教育費にかけられるのか、見極めが必要です。