年金について、満額受給が可能な65歳を基準に、受給時期を繰り上げ(繰り下げる)ことで受給額が変化することを知っている人は多いでしょう。平均寿命が伸び続ける日本では「繰下げ受給」を奨励する論調が多いように感じますが、はたして本当にそれでいいのでしょうか? 繰下げ受給を選択した67歳男性の事例をもとに年金制度のしくみと注意点をみていきましょう。FPの石川亜希子氏が解説します。
年金の繰下げ受給はやめとけ…年金月25万円を目指して“我慢”していた67歳男性、同級生から聞いた「衝撃の事実」に悲鳴【FPの助言】
同級生の「予想外の暮らし」に心揺らぐAさん
Aさんの気持ちが揺らいでいる原因は、先日出席した同窓会での同級生との会話にありました。
久しぶりに会った同級生のBさんと定年後の暮らしぶりについて話していると、Bさんは次のように言いました。
Bさん「俺? 俺は元の職場で週3日働きながら副業をしているよ」
Aさん「そんなに働いてたら、年金がカットされちゃうんじゃないの?」
Bさん「ああ、在職老齢年金のこと? あれは収入を調整すれば回避できるぞ」
Aさん「そうなの!? 俺はいま繰下げ待機中だから節約生活が大変でさ……」
Bさん「繰下げ? やめとけやめとけ。俺たちくらいの年齢になったらもういつ死ぬかわからんぞ? もらえるもんはもらっておかないと」
毎日節約に励む自分と、毎日生き生きと過ごしているように見えるBさん。Aさんは鬱々とした気持ちになってしまいました。
「在職老齢年金制度」とは
「在職老齢年金制度」とは、60歳以上の働く高齢者の給与と年金の合計が一定額を超えた場合、年金の一部が支給停止となる制度です。なお、在職老齢年金で支給停止の対象になるのは老齢厚生年金で、老齢基礎年金は減額されません。
具体的には、60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合「老齢厚生年金の月額」と「月給・賞与(直近1年間の賞与の1/12)」の合計額が51万円を超えると、超えた分の1/2につき、年金が減額されます。
支給停止額=(基本月額※+総報酬月額相当額※-51万円)×1/2
※ 基本月額……加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分の月額)
※ 総報酬月額相当額……その月の標準報酬月額+その月以前の1年間の標準賞与額合計÷12
支給停止調整額は年々上昇しており、2022年4月には47万円だったものの、2025年は51万円となっています。さらに厚生労働省は、来年度はこれを62万円に引き上げる方向で調整中です。
在職老齢年金制度については、高齢者の勤労意欲を削ぎ人手不足問題をより深刻にしているという批判があります。他方、年金の給付が増えると将来世代の給付水準の低下にも影響するため課題が多い制度です。
とはいえ、今回の事例におけるBさんのように、年金が減らされない程度の給与を受け取りながら副業で収入を得ることができれば、思い切り働けるうえに年金も減らされず、かつ社会保険料も抑えることができます。