「家も親も長男が継ぐ」という昭和のスタイルは、現代ではほとんど見られなくなりました。55歳の健太さんも、都心にある実家を相続する気はなく、“ある思惑”から姉に譲り渡すことに。しかし、その思惑は裏目に出ることとなったのです……。事例をもとに、山﨑裕佳子FPが相続でありがちなトラブルと注意点について解説します。
目黒の実家は姉さんにあげるよ…年収700万円の55歳サラリーマン、83歳父の「遺産」を実姉に譲った“ほんとうの狙い”【CFPが解説】
介護を姉に“押しつけた”はずが…予想外の展開に大後悔
早速、不動産会社へ仲介を依頼すると、担当者から「立地は抜群だし土地も広い。人気のエリアですから、すぐに買い手がつくと思いますよ」と言われました。
姉からこの話を聞いた健太さんは内心、心穏やかではいられません。
「母親の介護を回避したいという下心から実家を姉に譲ったのに、ほとんど介護の必要もなく母は亡くなってしまった。姉は実家を売って相当なお金を手にするだろう。こんなことなら、実家を姉に譲るなんて言わなきゃよかった……」
まさに「後悔先に立たず」です。
相続から3年以内に売却すれば「特例措置」が受けられる
実家の売却を検討した際、美奈子さんはFPから次のような話を聞きました。
「相続した家屋に住む予定がないなら、固定資産税や維持費もかかってしまうし、なるべく早く売るのが得策だと思いますよ。相続から3年以内に売却すれば特例措置が受けられて、税金を軽減することができますし」
相続した土地や建物を売却して利益が生じると「譲渡所得」となり、所得税や住民税の課税対象となります。その税率は5年以上所有の物件の場合20.315%です。
ところが、次の条件を満たす場合、譲渡した翌年の確定申告により譲渡所得から3,000万円を控除することができます。これが「相続空き家の譲渡所得3,000万円特別控除」という特例です。
適用条件は下記のとおりです。
・相続発生時まで、被相続人が1人で住んでいた家屋とその敷地であること(老人ホームへ入居していた場合も、一定の要件を満たせば認められる)
・1981年5月末以前に建築された建物であること
・相続発生から3年経過した年の12月31日まで、かつ2027年末までに売ること
・売却代金が1億円以下であること
・耐震基準を満たした家屋であること、または更地にすること(売り手or買い手※)
※ 買い手の場合は、譲渡翌年2月15日までに耐震工事をするか更地にする必要がある
また、もうひとつ「相続財産譲渡時の取得費加算の特例」という制度もあります。これは、相続または遺贈により取得した財産を一定期間内に譲渡すると、すでに支払った相続税のうち一定額を譲渡資産の取得費に加算することができるというものです。
一定額とは簡単にいうと、支払い済みの相続税額のうち、譲渡した財産分に相当する相続税額を指します。
適用条件は下記のとおりです。
・相続や遺贈により財産を取得した人であること
・その人が相続税を払っていること
・相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡していること
ただし、この2つの特例は併用することができません。いずれの特例制度も譲渡所得を少なくして税金を減額する効果があるため、どちらが自分にとって有利か判断することが大切です。
いずれにしろ「相続後3年」がキーワードのようでしたので、美奈子さんは早めの行動が得策と考えたようです。
相続はトラブルが起きやすい…親が存命のうちに対策を
今回、健太さんは目先の現金に目がくらみ、美奈子さんはあとのことを深く考えず、家を相続してしまいました。行き当たりばったりの対応で最善の方法ではなかったかもしれません。
相続や贈与に関しては特例制度が多いうえに、家庭によって事情も違うためなにが最善策か判断しづらい面があります。特に、遺産のうち不動産の価値が大きい場合は、相続人同士の揉めごとに発展するケースが少なくありません。
親が存命のうちに専門家の助言を受けるなどして、対策をとっておくことが望ましいでしょう。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表