「家も親も長男が継ぐ」という昭和のスタイルは、現代ではほとんど見られなくなりました。55歳の健太さんも、都心にある実家を相続する気はなく、“ある思惑”から姉に譲り渡すことに。しかし、その思惑は裏目に出ることとなったのです……。事例をもとに、山﨑裕佳子FPが相続でありがちなトラブルと注意点について解説します。
目黒の実家は姉さんにあげるよ…年収700万円の55歳サラリーマン、83歳父の「遺産」を実姉に譲った“ほんとうの狙い”【CFPが解説】
「目黒の実家」は姉に譲るよ…気前のいい弟の“ほんとうの狙い”
健太「姉さん。相談なんだけど、知ってのとおりうちはこれから教育費がものすごくかかるんだよ。この家は姉さんに譲るから、俺には現金を多めにくれないか? いま、このあたりの土地の価格はものすごく上がっているみたいだし。結果的には姉さんのほうが多く遺産をもらうことになるだろ」
美奈子さんは、大手上場企業の部長職に就くバリバリのキャリアウーマンです。
「昨年の年収は1,800万円と聞いているし、姉のひとり息子はすでに社会人。いますぐに現金がなくても困らないだろう」
と考えての提案でした。
加えて、80代半ばの母は遅かれ早かれ介護が必要になります。
健太さんには、「実家を姉に譲れば、母の世話も姉に全面的にお願いできるのでは……」という、もうひとつの思惑があったのです。
健太さんの真意を知る由もなく…美奈子さんは提案に賛成
美奈子さんは「いずれ実家を相続できるのなら」と、健太さんの提案に賛成。2,000万円の預貯金のうち、健太さんが1,500万円を、美奈子さんは500万円を相続し、実家は母名義にするということで話がまとまりました。
その後、しばらくは平穏な日々が続きました。
父の死から1年半後…今度は母が逝去。母親の預金は折半したが…
しかし、父の死から1年半後。今度は母が長患いもせず、あっけなく亡くなってしまいました。
母の遺産である現金1,500万円は2人で折半し、約束どおり、実家は美奈子さんが相続することに。しかし、美奈子さんには夫と暮らす持ち家があるため、すぐに実家には住めません。
賃貸に出すことも考えましたが、築45年の戸建てはリフォームなど一定のメンテナンスが必要になりそうなことから現実的ではありません。
半年ほどそのままにしていましたが、人が住まなくなった家の庭には草が生い茂り、防犯上もよくありません。そこで美奈子さんは知り合いのFPに相談した結果、相続した実家を売却することにしました。