年金繰下げ制度は、年金の受取時期を後ろ倒しにすることでその後の受給額を増額できるため、いわゆる“長生きリスク”への対策として注目されます。しかし、年金が増えるからといって安易な選択は禁物です。繰下げ受給の決断を後悔している60代夫婦の事例をもとに、“年金ルールの落とし穴”をみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
悔しい…年金繰下げで「月29万円」見込む60代夫婦、余裕の老後だったはずが〈年金ルール〉知らず“まさかの年金減額”に悲鳴「繰下げなんてしなきゃよかった」【CFPの助言】
「年金繰下げ受給」を選択する人はじわじわ増えている
厚生労働省「令和4年度厚生年金保険・国民年金保険事業年報」によると、令和4年度末時点の老齢厚生年金の平均受給額は14万4,982円となっています。
受給権者数は2,746万3,864人で、そのうち繰下げ受給をしているのは37万4,481人と、現状の受給率は1.3%ほど。しかし、だんだんと知名度が上がっていることなどから、受給率は毎年0.1%ほどですが上昇を続けています。
また、老齢基礎年金の平均受給額は5万6,428円です。受給者数は3,433万6,782人で、そのうち繰下げ受給をしているのは67万2,466人(受給率は2.0%)。こちらも、受給率は毎年0.2%上昇しています。
「年金の繰下げ受給」に興味を持ったA夫婦は、セミナー終了後に設けられていた社労士との個別相談で、年金受給を夫婦ともに5年繰り下げた場合のシミュレーションをしてもらうことにしました。
Aさん「私が70歳まで我慢すれば夫婦で月あたり29万円か……これはいいな」
夫婦は相談の末、受給開始のタイミングを70歳まで繰り下げることにしました。
年間およそ40万円の損…同期会で知った“驚愕の事実”
駐車場収入と貯蓄で5年間はなにごともなく過ごしていたA夫婦。ある日、Aさんは退社した勤め先の同期会に参加しました。
現役時代の思い出話に花を咲かせていると、話題は自然と「年金」の話に。Aさんはそこで“まさかの事実”を耳にします。
「お前、繰下げ受給にしたの? それだと加給年金は受け取れないんじゃないの?」
なんと、年40万円ほど支給されるはずの「加給年金」を受け取れないことが判明したのです。
得するために繰下げを決断したはずが、損していたかもしれないなんて……Aさんはショックでその後の話題に入っていくことができませんでした。
「なんで気づかなかったんだろう……このまま加給年金を諦めて繰下げ受給を待つべきか、いますぐにでも年金の受給を開始するべきか、いったいどっちが損が小さくなる?」
