103万円、130万円、96万円……日本にはさまざまな「年収の壁」があることをご存じでしょうか。これらの壁を超えると税負担が増えると理解はしていたものの、あまり深刻に考えていなかった孝太郎さん(仮名・55歳)。しかし、その“油断”が「思わぬ事態」を引き起こしたのでした……。神戸・辻本FP合同会社代表の辻本剛士氏が、事例をもとに「扶養控除」の仕組みとその影響を解説します。

ねえ、言ったよね?…年収750万円の55歳サラリーマン、大学生息子からの“助言”を無視して〈まさかの税負担〉→息子からの“激詰め”にしょんぼり「本当に情けない」【CFPが解説】
え、こんなに?…半年後の給与明細に動揺
年末調整の時期になり、父・孝太郎さんは勤務先からの案内に従って扶養控除を適用せずに提出しました。
ところが、翌月の給与明細を確認した孝太郎さんは思わず目を疑いました。
「え? なんか手取り減ってない?」
先月の給与明細と見比べると、明らかに差があります。所得税の欄を確認すると、先月よりも1万円近く増えているのです。
「なんでこんなに引かれてるんだ……?」
このとき、孝太郎さんは年末調整のことを思い出しました。
「ああ、颯太の扶養が外れたからか。まあ、1万円くらいなら……」
扶養控除がなくなった影響を実感した孝太郎さんでしたが、この時点ではそこまで深刻に捉えていませんでした。
ところが数ヵ月経ち、6月の給与明細を確認すると、またもや手取りが1万円近く減少しています。
「ん? また減ってるな……?」
調べてみると、住民税は6月に更新される仕組み。扶養控除が適用されなくなった影響が、このタイミングで反映されたことがわかりました。
所得税と住民税を合わせて年間20万円近い増税です。これまでの家計のバランスが崩れ、孝太郎さんはしだいに不安を感じるようになりました。
「え、こんなに? ちょっと待てよ、こんなに税金が増えるとは……」
思いがけない負担増に頭を抱える孝太郎さん。このままでは生活が厳しくなると感じ、まずは息子の颯太さんに相談することにしました。
孝太郎さん「……あ、颯太、いまちょっと話せるか?」
颯太さん「もしもし? うん、大丈夫だけど、どうしたの?」
孝太郎さん「実はな……お前が扶養から外れたせいで、手取りが20万円近く減ってしまったんだよ。税金が思った以上に増えてな……」
颯太さん「え? そんなに?」
孝太郎さん「そうなんだよ。まさかこんなに影響が出るとは思ってなくてな。颯太、申し訳ないんだが、もう少しバイトの収入を抑えられないか?」
颯太さん「待って、急に言われても減らせないよ。こっちもちゃんと調べなくて悪かったけど、だからあらかじめ電話したんじゃん。サークルの遠征費と道具代で最低でも20万円は必要なんだよ」
親に頼らず、自分の力でやりくりしようとしている息子の様子に感心する一方で、年間20万円近くの増税はやはり痛手です。
「あのとき、ちゃんと調べておけば……」
孝太郎さんは自らの失態に眉を曇らせました。
そして妻と相談のうえ、今後の生活費のやりくりについてファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。これまで税金について深く考えたことはなかったものの、息子の扶養が外れたことで家計に大きな影響が出たため、夫婦で専門家の意見を聞くことにしたのです。