多くの人が「老後への不安」を抱える一方で、なかには潤沢な退職金と十分な年金を受け取ることのできる“勝ち組シニア”もいます。しかし、彼ら・彼女らであっても、死ぬまで安心とは決して言い切れません。さまざまな角度からやってくる「老後破綻」のリスクを回避するにはどうすればいいのでしょうか。定年直後の元公務員、松永さん(仮名)の事例をもとに、FPの辻本剛士氏が解説します。
本当に好きだったんです…〈年金月23万円・定年退職金2,500万円〉“世間知らず”な65歳・元公務員男性が「安泰の老後」を奪われた“甘い誘惑”【CFPが解説】
秀樹さんの「その後」
考えを巡らせるうち、ふと、以前両親がお世話になっていたFP(ファイナンシャルプランナー)の存在を思い出した松永さんは、FP事務所を訪れて一連のてん末を話しました。
「それは……大変なことになってしまいましたね」
秀樹さんの話をじっくり聞いたFPは、松永さんの現在の年収や生活費、貯蓄状況を確認しながら老後の資金計画を立ててくれました。
秀樹さんの現在の貯蓄はわずか200万円ですが、毎月23万円の年金収入があります。
FP「松永さんご自身の生活費はこれまでどおり抑えられているので、毎月の収支は3万円程度の黒字になりそうですね。このままいけば、現在の貯蓄と合わせて8年後には500万円の資産を作ることができます」
秀樹さん「500万円……? そんなに貯蓄が必要なんですか?」
FP「介護費用や自宅の修繕費などを考慮すると、最低でも500万円の貯蓄は持っておきたいところです。もし、少しでも貯蓄を早く増やしたいなら、アルバイトやパートで収入を補うのもひとつの手でしょう。月に数万円でも収入を増やせれば、その分早く資産を回復できますよ」
秀樹さん「なるほど……」
FPの提案を聞き、自分が国家公務員として長年働いてきた記憶が蘇ってきました。
「俺が頑張って働いてきたおかげで、こうして毎月年金を受け取れているんだな。……お金は大事に使わなくては……」
「ありがとうございます。裕子さんのことは本当に好きだったので正直まだショックですが、今後の暮らしに少しだけ前向きになれました」
FPにお礼を告げ、秀樹さんは事務所をあとにしました。
67歳からの新たな暮らし
FPに相談したあと、秀樹さんは近くのスーパーマーケットでパート勤務を始めることにしました。月に10日ほど働き、月に約5万円の収入を得る生活です。
その職場には若い学生から主婦、高齢者までさまざまな人々が働いており、毎日顔を合わせて挨拶や雑談を交わします。
「おはようございます、松永さん」「今日も寒いですね~……気合い入れて頑張りましょう!」久しぶりに、直接人とのつながりを感じる日々です。
(資産の大半を失ってしまったけれど、こうして働きながらいろんな人と話すのも悪くないな)
秀樹さんは第2の人生を歩み始めました。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表
