ある日、裕子さんから届いた“誘い”

そんな日々が続いていたある日のこと。裕子さんから、次のように提案がありました。

「実は、仕事が忙しくてSNSを開く時間があまりないんです。でも、秀樹さんとお話するのが楽しいから……よかったら別のアプリでやり取りしませんか?」

裕子さんのことを信用し切っていた秀樹さんは特に疑問も持たず、裕子さんが勧めるメッセージアプリをインストールしました。

メッセージアプリでのやり取りを重ねていくうち、裕子さんは自分の夢を語り始めました。

「私、田舎で小さなカフェを開くのが夢なんです。カフェ巡りが好きで、ずっと『自分のお店を持てたらな~』と思っていて。でも、お金が貯まらなくて、なかなか……(涙)」

「もしお店を開くことができたら、一緒に経営しませんか? 大変なこともあると思うけど、秀樹さんとだったら、きっと乗り越えられると思うんです」

誰かと一緒に生きる未来を想像したことがなかった秀樹さんにとって、それはとても魅力的な提案でした。

ご、500万円!?…裕子さんからの“深刻な頼みごと”

「開業資金が足りないんです(涙)」

そんなある日、裕子さんから切実なメッセージが届きます。

「カフェを開く準備を進めているんだけど、どうしても500万円足りなくて……」

「500万円」という数字に驚きましたが、困っている彼女を見過ごすことはできません。

「とりあえず、会って話を聞くことはできないかな?」

秀樹さんはそうメッセージを送りましたが、直前になって「ごめんなさい、体調が悪くて……」「私、病気がちで、なかなか外に出られないんです」と返信があり、実際に会うことはできませんでした。

(退職金もあるし、裕子さんのためなら……)

秀樹さんは悩んだ末、指定された口座に500万円を振り込みました。

「本当にありがとう! 秀樹さん、愛してる」

これで彼女との心の距離も近づいた! と舞い上がった秀樹さんでしたが、その後も裕子さんからの頼みごとは続きます。

「店舗の契約金が足りなくて」

「カフェの機材を揃えるために、もう少し資金が必要なの」

「開店目前で業者に逃げられちゃって……。どうしても追加でお金がいるの、助けて」

秀樹さんは、裕子さんの夢を応援したい一心で、頼まれるたびにお金を振り込みました。大好きな彼女が困っているのなら、助けるのは当然のことです。

しかし……。気がつけば、秀樹さんの預金はほとんど底をついていました。

「裕子ちゃん、本当にすまない。援助できる資金が、尽きてしまったんだ。でも、裕子ちゃんのためなら、なんだって力になりたい。1度、直接会って話すことはできないかな? こんな年齢だけど、僕は、裕子ちゃんと一緒になりたい。覚悟はできてる」

しかし、一向に裕子さんからの返信はありません。

不安になった秀樹さんは、普段やりとりしているメッセージアプリではなく、久しぶりにSNSを開いてみました。すると、裕子さんのアカウントが消えていることがわかりました。

(どうしたんだろう……? まさか、騙されたのか? いやいや、そんなはずはない。僕たちは愛し合っているんだから)

考えあぐねた末、裕子さんになにかあった可能性も考えた秀樹さんは警察に相談。そこで対応してくれた警察官の言葉でようやく目が覚めました。

「松永さん、これは典型的な『ロマンス詐欺』です」